106話
「あのね、今日はバレンタインデーだから、焔さんに教えてもらいながら、黒炎くんのために手作りチョコを作ったの。紅蓮会長にも作ったんです。黒炎くんのと違って、本命チョコではないですけど。……私も二人には喧嘩してほしくない」
私も自分の思ってることを言った。私なんかの言葉は焔さんに比べて弱いし、説得力なんてないかもしれないけど。
「朱里……悪かった。俺も会長のことは嫌いじゃないんだ。本当に感謝してて。けど、朱里は俺の恋人だから、その……渡したくなかった」
「っ……そ、そんなこと」
焔さんと紅蓮会長がいる前で、そんな恥ずかしいこと言っちゃうの? やっぱり前に比べて、黒炎くんは大胆だ。
「惚気、ご馳走様でした。……このチョコは有難く受け取っておきます、先輩として」
「紅蓮会長、ありがとうございます」
「良かったですね、朱里様」
「はい!」
どうやら解決したようで、私も安堵の声を漏らす。焔さんも普段通りの口調に戻ってるし、良かった。さっきと違って、怒ってないみたい。
「黒炎。霧姫朱里と二人きりになることを認めてあげてもいいですよ。今日は、せっかくのバレンタインデーですから」
「会長。そうですね、せっかくですし二人になれる場所にでも行ってきます。朱里、とりあえず外に行くか」
「え? う、うん」
私が焔さんと話している間に、黒炎くんと紅蓮会長の会話が終わったようだけど、私は黒炎くんに二人きりにならないか? と誘いを受けた。あと、紅蓮会長が妙な口調というか……こういうのツンデレっていうのかな?
「朱里様、私と紅蓮様のことは気にせず楽しんできてください」
「霧姫朱里。コレを忘れていますよ」
「紅蓮会長、焔さんありがとうございます! 楽しんできます」
私は紅蓮会長から言われて紙袋を受け取る。これって、私が黒炎くんに作ったチョコだ。二人きりになってから渡せってことだよね。気が効くというか、さすが紅蓮会長。
「このへんでいいか」
とある公園。私たちはベンチに座った。二月なので、外はまだ寒い。
「黒炎くん、その……コレ受け取ってください!」
もう二人きりなったんだし、と私はバッ! と紙袋を黒炎くんの前に差し出した。恥ずかしさのあまり、つい敬語になってしまった。声も裏返っている気がする。
「さっき俺のために作ってくれたっていう本命チョコか。ありがとな、朱里」
「ど、どういたしまして」
黒炎くんが微笑んでる。カッコいい……。
私は心臓がバクバクいってるのに、黒炎くんは余裕そう。
「今、開けてみてもいいか?」
「うん、大丈夫だよ。でも、初めてだから上手くできたかどうか……」
「朱里が作ったものなら、どんなものでも嬉しいぞ」
うぅ。そうやって、嬉しい言葉をかけてくれる黒炎くんが好き。そんなこと言われたら、もっと好きになっちゃうよ……。
「可愛いチョコだな。……ん、美味しい。上手に出来たな、朱里」
真ん中にLOVEって書いてあるのに可愛いチョコだなんて、黒炎くんはどれだけ心が広いの? 普通なら笑われても仕方ないような感じになっちゃったし。自分で言うのもなんだけど、今になってみるとこれはあまりにも恥ずかしいチョコだ。
だけど黒炎くんが美味しいって言ってくれたし、そんな悩みも吹っ飛んだ。手料理なら、黒炎くんのほうが上手なのになぁ。前に食べたオムライスもフワフワで美味しかったし。