104話
「紅蓮会長、部屋に入ってもいいですか?」
コンコンとノックをして声をかける。いきなり入るのはまずい気がする。特に執筆中だったら、集中してるだろうしね。
返事がないから、リビングに戻ろうとすると中からドアが開いた。
「一段落ついたので……どうしましたか。怪我でもしたんですか」
「怪我はしてないです。えっと、トリュフを作ったので良かったら……」
もしかして、林間学校の時のこと? 私ってドジだと思われてるのかな。
「ありがとうございます。まさか貴方から貰えるとは思わなかったので驚きました」
「あはは……紅蓮会長にはいつもお世話になっているので、そのお礼というか。署名活動では助けてもらったし」
「いいんです、貴方のためなら。霧姫朱里、これを本命チョコとして受け取ってもいいですか」
……ん? 今、なんて言った? 本命チョコって聞こえたんだけど。私、そんなこと言って渡してない、よね。
「聞こえなかったのなら、もう一度言います。このチョコを本命チョコとして受け取ります」
「えぇ!?」
聞き間違いじゃなかった。私は、驚いて声が出てしまった。
すると、バンッ! とリビングから音がした。焔さんが何か落としたのかな? なんて思っていたら、「また性懲りも無く、朱里を口説いてるんですか?」と黒炎くんが怒りながら、こっちに近づいてきた。
「それこそ個人の自由だと思います。どう解釈しようが僕の勝手です」
「心から俺たちの交際を祝福してたんじゃないんですか」
例によって口喧嘩が始まってしまった。そして、さっきの冒頭に戻るわけで。黒炎くんが紅蓮会長の家に何事もなく普通に入ってくるのは、紅蓮会長驚いたりしないのか。
たしかに合鍵を持ってるし、アシスタントの手伝いや手料理振る舞うためによく出入りしているとは聞いたけど……。
こうも自然に入ってきて、いきなり口喧嘩するって、仲が悪いのか良いのかどっちなんだろう。