1話
“初恋”
好きな人のことを考えるだけで、胸がドキドキする。
目と目が合うだけで、顔が真っ赤に染まる。
手を繋ぎながら、デートしてみたい!って、可愛いことを想像してみたり。恋って青春の一つだよね!? と、大声で叫びたくなる。
両思いになったら、さぞかし幸せだろうな……と思っていたのも束の間。
再会した幼馴染は☓☓オタクになっていました。
―――私には忘れられない初恋がある。
* * *
「ふふふふ。今日からJKか」
姿見の前でニヤニヤと笑顔を浮かべる私、霧姫朱里。今日から、高校生です。
「制服かわいい~♪」
赤いリボンに短いスカートはまさに女子高生って感じ!
何度もクルッとまわってみては、自分の制服姿を確認する。
「あ……」
ふと、目に入るのは、一枚の写真立て。
そこに映っているのは、小学4年生の頃の私と一人の男の子。
「元気にしてるかな……黒炎くん」
サラサラの黒髪で小学中学年ながら、顔立ちが整っている。
成長したら、間違いなくイケメンになるタイプの男の子。
柊黒炎くん。
そんな彼は、幼稚園からの幼馴染。
そして、私の初恋の人でもある。
だけど、そんな彼は小学5年生になる前、遠くに行ってしまった。
急な引越しだったせいで、連絡先も交換しなかった。
残っているものといえば、この写真くらい。
幼少期時代のことで、思い出があいまいな部分も多い。
今でも好き? と聞かれると、「会ってないからわからない」と答えてしまうかもしれない。
だけど、心の奥底では、黒炎くんのことを好きという気持ちがある。
「制服姿、見てほしかったな」
ポツリと小さく呟いた。だけど、この声が黒炎くんに届くことはない。
そんなこと、わかってる。
でも、初恋だったんだもん。そんな簡単に忘れられない。
きっと、もう一度会ったら恋してるかどうかわかるはず。
「朱里ー、遅刻するわよー!」
「はーい」
下からお母さんに呼ばれ、ハッと我に返る。
「……よし! これで完成!」
部屋を出る前に、腰まである黒髪を上にキュッと結んだ。
私はスクール鞄を肩にかけ、バタバタと階段を下りて、玄関の扉を開けた。
「お母さん、行ってきます~!」
「行ってらっしゃい。お母さんも後から行くからね」
桜舞う今日は入学式。
素敵なことが起きますように……と心の中で呟きながら私は学校へ向かった。