09:フジワラ
魔の森。
ローラン王都の南に広がる森の俗称である。
人が空気のある空間でしか生きられない様に、魚が水の中でしか生きられない様に、魔物も魔素のある空間でしか生きることが出来ない。
空気中の酸素濃度が高過ぎては人は生きていけないように、空気中の魔素が高過ぎると低レベルの魔物も生きていくことができない。
魔の森の魔素は、高レベル迷宮の最下層並みの濃度のため、ここに生息する魔物は普通では考えられない程の高レベルな魔物しか存在していない。
魔の森自体が何かの結界なのではないかと言われるほど特殊な場所であり。この森の存在自体がローラン王国の南方面を完全防備する自然城塞として機能している。
高レベルの魔物はワザワザ魔素の少ないローラン領内へと侵攻してくる事はないし、並の戦力では太刀打ちできない魔の森へ好き好んで侵入する愚か者も存在しない。
しかし、好き好んででは無い愚か者と言うのは存在するらしい。
紫電一閃!
目にも止まらぬそのひと突きは、まるで稲妻が駆け抜けたかの様に、襲いくる巨大な魔物を粉砕する。
その手に持ちたるは人間無骨、その目にも止まらぬ絶技は魔槍技による超絶スキル。
その男の名はフジワラ!
ソロで魔の森を闊歩する兵である!
無言で進むその瞳には確固たる決意がみなぎっている。
魔の森を徘徊し出して数日。
ついにその時が来た!
背後から襲いくる剣閃!
その鋭く強烈な攻撃にフジワラが両断される!
次の瞬間、虚空に現れるフジワラ! これは、空蝉の術だ!
魔槍技、無限突き!!!
無限とも思えるの槍による突きが、襲撃者に襲いかかる!!!
「ホッホッ!」
奇妙な笑い声と共に、無限の斬撃が全ての突きを弾き返す!!!
紫電!
無限の突きに紛れて放たれる、瞬きの突き!
ガキンッ!!!
その突きは宝剣龍牙ににより受け止められる!!!
「ジジイ、テメェ今まで何してやがったんだ!?」
「ホッ! 激おこじゃのうフジワラちゃん」
魔人ギルバートとフジワラの邂逅である。
炎魔法で熾した火で大きな鉄串にさした魔物の肉を焼く。
アイテムボックスから冷たい飲み物を取り出して、ギルバートに渡す。
「ホッ、酒とは気が利くのう」
「ジジイ、知らないだろうが大変だったんだぞ」
先日起きた森蘭丸と織田信長、そして酒呑童子と茨木童子の件。今考えても寒気がする。
「知っとるわい。何かあったのじゃろ」
ギルバートにもリンから知らせが来ていたのだ。
「あ? 知ってて何してたんだよボケジジイ」
「…………………のじゃ」
「あ゛? 聞こえねーよ」
「迷ってたのじゃ」
恥ずかしそうに頬を赤らめるジジイ。
「しね」
「酷いのお、フジラワちゃんがここに来ているって事は、どうにかなったのじゃろ?」
「なってねーよ」
「ホッ!」
楽しそうに笑うジジイ。
パチッ!
バチッと焚き火がはぜる。
「高レベルのアンデッドが棲息する場所があると聞いた」
「ホッ! 確かに存在するが、あそこは危険じゃぞい?」
「覚悟の上だ」
「殺しても殺しても生き返ってきて、終わりのない場所じゃぞ?」
「ああ、分かっている」
パチッ!
バチッと焚き火がはぜる。
炎に照らされるジジイの顔から笑みが消える。
「何があった?」
ジジイが真剣な眼で俺を見てくる。
「別に、」
「おぬしはまだ若い、生き急ぐ事はない」
「死ぬ気はねーよ」
「その槍と技、素晴らしいものだ」
「ああ、今の俺には過ぎたものだ」
これはただの頂き物だ、棚からぼた餅ってだけだ。
「何故、死に急ぐ?」
「だから、死ぬ気はねーって!」
……………………
………………
…………
……
「ホッホッホ! わかったぞい案内するわい」
いつもの調子に戻ったジジイがいる。
「ああ、頼むわ」
俺はどうなんだろうな。
「そこは、不死の原野という場所じゃ」
ハッ!
そうか、
そういう事か?
気持ち悪ぃな。
不死の原野ってか?
なんだ?
運命とでも言うつもりか?
上等だぜ!!!
果たしてフジワラは無事に生還出来るのか!?
そう!
フジワラの戦いは始まったばかりなのだ!!!
ガンバレフジワラ!
こうしてフジワラの物語はいったんここで幕を閉じる。
フジワラ先生の次回登場にご期待ください。
完。