07:気付き
なんだろう?
僅かな違和感。
一瞬の思考の中に感じた違和感を探るため、少し視点を変える。
まずは登場人物を整理する。
フジワラ君。
これはテレスさんからの発信。
偶然?
いや、これは現在の状況を考えると話題としては必然だ。
ここに居てもおかしくないフジワラ君が話題に出る。特におかしなところはない。
しかし、気になる点も存在する。なぜ居ないか? 何故修行なのか? まあそれは置いておこう。
カーサ。
偶然出てきた?
違う、会話や思考、それに夢の中で偶然というのは存在しない、これは必然と考えるべきである。何か因果があるはず。
これは私の思考、懸念事項を整理していた流れで出てきた結果だ。
…………テレスさんを見る。
テレスさん。
冒険者ギルドの職員。
ウィリアムさん。
魔道具屋。
キーワードはこの辺りか、
「テレスさん。カーサなんですけど、何か知っている事とかあります?」
唐突に質問を投げかける。思考が整理しきれていないため、何かヒントが出ないか曖昧にそして大雑把に聞く。
「? そういえば、魔道具屋は冒険者にとってなくてはならない存在だから、こんなに長期間閉まっていては困ると、ウィリアムが冒険者を動かして色々と調べているらしいわ」
「何かあったんですか?」
「それが何もないらしいわ、ただ、閉まったままの魔道具屋の店内に何度か人の気配を確認したという報告が上がっていたわね」
「どういう事です?」
「わからないわ、魔道具屋は不可侵な存在といえるから無闇に手を出すわけにもいかないし」
うーん。
「どうしたのだ? リン」
クロが聞いてくる。
「うーん、なんだろう、ちょっと気になったから、虫の知らせみたいなものかなあ。んー、解んないや」
「ふむ?」
なんだろう、そういえば以前もカーサの夢か何かを見たような、それが引っかかっているのかな?
「そういえば、カーサの家に押し入るかという話があったな」
言葉が悪いけど確かに、何だろう、何かが動き出す予感でもあるのかな?
なんか、不思議な感覚だ。
「あ、そういえば、フジワラ君が修行に出るっていう話。クロなんかした?」
フジワラ君、先日の件で新しいスキル魔槍技を手に入れている。これはクロやテレスさんの持っている魔闘技と同じような上位スキルのひとつ。
魔槍技の熟練度を上げるだけなら私達と最下層に潜れば良いだけで、修行に出る必要は無いはずだ。わざわざ一人で修行に出るなんて、何か特別な事に挑戦しようというのか、もしかしたら、危険な事に挑戦しようとしているのかもしれない。
「しらーんのだ」
言いつつ、ツイッとクロがあからさまに視線を逸らす。
「知ってるのね」
グイッとクロの頭をこちらに向ける。
「しらーんのだ!」
前足で頭を固定している私の手を掴み、くるんと一回転して両足で私の腕にしがみ付いてくる。
「なに吹き込んだのさ? この前の時ワザワザフジワラ君に付いてったのって、その悪巧みのためだったりしないでしょうね?」
「悪巧みじゃないのだ、ネコ心なのだ!」
「あー、じゃあ、認めるのね」
「ぎく、認めないノーだ!」
「フジワラ君、一人だと無茶しちゃうタイプなんだから、変なこと吹き込んだらダメでしょ」
「吹き込んでないのだ、選択肢を与えただけなのだ。それを選ぶかは小僧次第なのだ」
「何を言ったのさ?」
「おしえないのだー」
クロが真っ直ぐこちらを見つめながら言ってくる。
「リン、我は小僧を信じているのだ!」
その真摯な瞳に、クロの本心が垣間見える。
「ふーん、なにを?」
「くたばることを?」
「もー!」
そんなこと本気で思ってるのね、悪い子です。
クロを腕から引き剥がし、身体中をわしゃわしゃする。
「やーめーるーのーだー!」
嬉しそうにのたうちまわるクロ。
まあ、クロがなにを吹き込んだかは知らないけど、フジワラ君が自分で選んだ道なら、止められないかな。
なんていうか、ちょっと、相談して欲しかったかな。
かぷっとクロが指を噛んでくる。
「痛いでしょー!」
もっとクロをわしゃわしゃにする。
「やーめーるーのーだー!」
嬉しそうにクロがのたうちまわる。
ふぁさ、とテレスさんが私の髪を触ってくる。
「?」
「安心してリンちゃん。フジワラは私が殺しておくわ」
「へ?」
「よくいったテレス、我も加勢するのだ!」
「フフ、クロちゃん、チリも残さず粉砕しましょうね」
「うむ!」
なんでそうなるの?
何故か意気投合するクロとテレスさんに戸惑いながら、残りのスコーンを口に入れ紅茶を啜る。