32:本当の願い
可能性の種を見つめる。
手が有る。可能性が出来た。
カーサは友達で仲間。
もっとずっと一緒にいたい。
だけどそれは私の我が儘。
カーサが死を願うなら叶えてあげたい。
神樹の孤独。どの様なものかは理解できない。
だけど、それでも、、私は、、
アイテムボックスから魔玉を取り出す。
コロコロコロ、、、
神眼を発動する。
カーサに神樹の力が集まる様に、樹の上の枝葉を斬る。
パキンッと魔玉が割れる。
カーサに神樹の力が集まる様に、樹の下の根を斬る。
パキンッと魔玉が割れる。
これで、種を創る時に失った神力は回復するはずだ。
カーサ、お願い。
「うん、、もっと一緒にいたかったなぁ、、」
「……」
私はズルいのかもしれない。可能性ができた時点で殺す気など無かった。
私はズルいのだ。カーサともっと一緒にいたいのは私の方なのに。
私はズルい。クロと目が合う。
にっと笑い合う。
「リン?」
「いいよ」
じゃあ始めよう。
錬金の種を割り、錬金スキルを取得する。
レベルは1だけど、これからやる事には最大レベルの5位が必要になる。一気にレベルを上げよう、死ぬほど大変だけど問題ない。最近、死ぬほど大変な事には慣れた。こんなの大した事ない。
「え?」
「ハイ・エルフには戻せないけど、元の身体を復元しようか」
「え?」
「カーサも手伝ってよ、自分の身体なんだから私より詳しいでしょ?」
「え?」
「ほら、わざわざ神眼と神糸を使って神樹の力をカーサの身体だけに集めて錬生も復活させたんだから」
「え?」
「もっと一緒にいたいんでしょ?」
「え?」
「私はカーサともっと一緒にいたいんだ」
「え、うん! 私ももっとリンと一緒にいたい!」
「うん。じゃあ錬生でカーサ自身を創り出そう」
「……わかった!」
肉体の創造。上手くいくか分からない。いや、上手くいかす。絶対!
「オ、オ、オ、オオオォォ! なんてことを! なんということを!!!」
アテンだ。殺しても死なないのか、おそらく自分に実験をし神樹の力を取り込んだことで得た力だろう。やっかいだ。
けど、相手をしている余裕など無い。今から既に存在していた身体とはいえ生命を創り出すのだ。全てをこれに集中しなければ。神眼と神糸と神樹の力で、人の身で、神の力を行使する。これは神への冒涜になるのだろうか? けどそんなの関係無い。天罰が降るなら受けて立つ。誰と似てるとは言わないが、私も相当な我が儘さんなのだ!
「じゃあクロ、アテンの相手はお願いね」
「うむ、まかしろ!」
リンとカーサのしようとしていることは、分の悪い賭けだ。
提供割合0.01%のSSRを一回のガチャで引くようなもの、しかもその運営発表の確率さえも疑わしいような悪徳ガチャをだ。
だからといってリンの手でカーサを殺すことなどさせてはならない。そのようなこと、今まで築いてきた全てが崩壊してしまう。リンは大丈夫と言うだろうが、大丈夫と言葉にする時点で大丈夫ではないのだ。
このような事がないようにと、死ぬよりつらい思いをしてまで手に入れてきたその力。存分にふるわせる。運営の用意したガチャを引くのではなく、自分達の力でSSRを創り出すという離れ業。可能性は低いが、運営が介入してくるかもしれない。その時は、、
外を見ると、首の無いハーフエルフ達が武器を手に周りを取り囲んでいる。手にした頭を首に着けようとしているヤツもいるが、リンが糸で斬った断面は治癒しない。そのように斬っているからだ。
おそらく核であろう神樹の破片を斬ればハーフエルフ達は死ぬのだろうが、斬った途端爆発でもされたら危険と判断しリンは首を斬ったのだろう。それに関しては今も変わらない、下手に爆発されても困る。しかし、ならばいっそのこと個別に爆発されるくらいなら、念動力でバリアを張って一気に全てを爆発させるという手もある。
アテンを見つける。五体満足なその姿。
斬ッ!
縮地を発動し、念動力の爪で頭を吹き飛ばし戻ってくる。
いきなり頭部が吹き飛んだアテンに、周りのハーフエルフ達の動きが止まる。やはりアテンだけは特別か。
吹き飛ばした頭が復元するアテン。
斬ッ!!!
今度は、身体ごと全てを吹き飛ばす。神樹の欠片を埋め込んでいるならば、それごと粉々に吹き飛ばした。
ポゥと空間系魔法の気配に目を向ければ、吹き飛ばしたアテンが別の場所で結界の魔道具を発動している。
ガキンッ!
アテンの周りに張られた結界ごと吹き飛ばそうとするが、結界が完全に攻撃を遮断する。旧ア・族の村で見た時はあの程度ならば破れると判断したが、結界範囲をアテン個人に絞り込むことで強度が増しているようだ。
アテンの指示とともに、ハーフエルフ達からリンに向かい矢が放たれる。弓術に長けているエルフ族だけあって狙いは正確、カーサに向かう軌道の矢は一本も放たれていない。
縮地と念動力で矢を叩き落とす。
アテンの周りのハーフエルフを念動力で集め結界にぶつけ、粉々に切り刻む。ぬ、爆発しないのか。鑑定か何かで調べようとした時だけ自動的に爆発するのか?
「ニンゲン! なぜ貴様がワタシとアテン様だけの秘密を知っている!?」
質問しているようだが、カーサの復元作業に全集中しているリンには一切届いていない。攻撃が温いのはそのあたりも知りたいからか。
魔眼でアテンを分析する。
種族はエルフ。鑑定スキルも錬金スキルも持っている。普通、別段何か特別なスキルを持っているわけでは無い。普通というのがキーなのか。
アテンと目が合う。鑑定している。隠す必要もない、全てを見せてやる。
驚愕の表情。
「お前達はいったいナンナンダ!」
「くくく、我こそは神!」
「ナッ! なんだと!?」
「アテンよ、お前のその神をも恐れぬ愚行の数々、この魔神王クロ様が知らぬとでもおもったか!!! お天道様はお見通しなのだ。くわっ!!!」
「神では無いのか?」
「む?」
俯くアテン。
「モウイイ、、ニンゲン、いつもお前達だ。すぐに死ぬくせに、、」
「モウイイ、」
アテンが増える。
その瞬間を魔眼で見ていた。そういう事か、神樹の破片。あれがアテンなのだ、どおりで爆発までして鑑定を嫌う訳だ。
ハーフエルフが魔法の発動に入る。
これは範囲魔法。無傷での決着を諦めたか。




