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神樹の巫女  作者: 昼行灯
31/32

31:願い

 集会場か何かのなだろう、屋敷ではあるが風通しの良い造りになっていて、近づいてみれば外から中がよく見える。

 

 その外からも見える若い神樹を鑑定してみれば、それは確かにカーサであり、ハイ・エルフであった種族が神樹へと変わってしまっている。はたして、自分の意思で神樹へとなったのか、それとも、、


 屋敷の中へ入り、カーサの元へと向かう。


 引き戸を開き、中に入りカーサと対面する。



 言葉を失う。



 神樹の幹に半ば埋もれる姿のカーサ。

 神樹自体もカーサの一部なのだが、ハイ・エルフであったカーサの意志が一つになるのを拒むかのように、既に身体が木に変わり果てているにも関わらず、エルフであったカーサとしての姿を留めそこに存在している。

 しかし、その両腕は上に持ち上げられ、神樹から作った(くい)で両手を貫かれ、両足も同様に杭で貫かれ地に縫い付けられている。自分から望んだ行為ではないのは明白だ。


 ある言葉が頭に浮かぶ。


 ()()


 至極単純な手法。しかしエルフが絶対に手を出さないであろう手法。あの杭、おそらく燃え残った神樹の中でも生命の根幹を成す部分、神樹の芯の部分を使い作り上げた物だ。それを神樹になれる資質を持つハイ・エルフに使う。何にでもなれる万能細胞に神樹という変化先を接ぎ木する事で万能細胞自体を神樹へ変わる様に強制的に導く。

 神樹に手を出すなど正常な思考のエルフならば思いもつかない事。それを仲間の中でも特に高貴な存在であるハイ・エルフに突き刺すなど、正気の沙汰では、、いや、そうか、そういう事か、ハーフエルフ達に埋め込まれていた神樹の破片、アレはおそらく実験だ。そう、そうだ、実験ならば、ハーフエルフの次に、そしてハイ・エルフの前に試すべき対象が存在する。


 目的の為に手段を選ばなくなったエルフ。誓いを果たす為に全てを捨てたエルフ。禁忌を侵したエルフ。狂ったエルフ。


 一人だけ残った、ア・族のエルフ、アテン。確実に、彼女は自分が神樹になろうと試みている。


 そうすると、やはりアレは人形か。



 まあいい、今はカーサだ。

 神樹になった事で、スキルが変化している。


スキル:

 (特殊)鑑定

 (武技)弓術5

 (魔法)火魔法3→無し、水魔法4→氷魔法5、風魔法5→雷魔法5、鉄魔法2→5

     光魔法3→5、闇魔法1→無し

 (生産)錬金5→錬生


 まず、錬金5が進化し錬生(れんせい)というユニークスキルに変わっている。

 それに、魔法が全て上位魔法のしかも最高レベルになっている。代わりに火魔法と闇魔法が無くなっている。

 これは、神属性になった事で闇魔法が使えなくなり、樹属性で火魔法が使えなくなったと見るべきなのか?


 錬金スキルが神樹になる事で錬生スキルに進化しエルフを生み出すのか。

 神樹の巫女の条件、錬金スキルとハイ・エルフである事。確かにその通りだ。


 「カーサ」

 神樹となったカーサの頬を両手で包む。


 少しの温もりを感じるが、この手に伝わる感触は、一緒に過ごした時に感じた柔らかな肌の温もりではなく、、


 「リン?」

 動かぬ唇がカーサの声で言葉を発する。これは一種の念話だ。


 「うん、カーサ。遅くなってゴメン」

 既に手がない。可能性がない。


 「会いたかった。側にいるの?」

 既にカーサの視覚は失われている。錬生以外の進化したスキルや鑑定は、産み出される新しい生命に引き継がれるためだけに存在しているのだ。新たな命のための母なる大樹に個の意識は必要無い、エルフよりも長く生きる神樹という存在に心も身体もシフトする。


 意識を保っている事が奇跡なのだ。


 「目の前にいるよ」

 「我もいるのだ!」

 「クロちゃんもいるんだ」

 「うむ!」


 「よかったぁ、、まにあって、」


 カーサ、、嬉しそうに微笑むカーサの顔がその感情のない神樹のカーサの顔に重なる。


 「リン、受け取って、」


 何処からか、木の実がひとつ落ちてくる。

 「これは?」

 「…………私からリンへのプレゼント」

 一瞬、カーサの意識が曖昧になった。無茶をする、、、木の実を鑑定をする。

 「錬金の実?」

 「うん。凄いでしょ? リンにあげるの」


 ()れば、カーサから錬生のスキルが無くなっている。それは何を意味するのか。形見とでもいうの?


 「リン、覚えてる?」

 「うん?」

 「私のお願いを何でも聞いてくれる券」

 「うん、覚えてるよ」

 「じゃあ、私のお願い聞いてくれる?」

 「うん、私に出来る事ならね」

 「うん」


 解っている。


 「リン、お願い」

 「なあに?」

 「私の意識が消える前に、」

 「うん」



 「私を殺して」



 「…………いいよ」


 解っていた。

 カーサの願いだ。

 私に出来る事だ。



 「ヤ、メ、、ロ!!!」

 外からアテンの声が響く。


 右手を振るう。


 キンッ!

 澄んだ音を立てて屋敷が、外にいる全てが二つに裂ける。

 「外野は、少し黙ってて」


 クロが聞いてくる。

 「いいのか?」

 「うん、カーサの願いだから。クロこれ、」

 「うむ?」


 「…リン、お願い。もうダメみたい」

 「うん」

 「クロちゃん、バイバイ」

 「うむ。強く生きろ!」

 「ハハ、」


 「いい?」

 「うん」


 コロコロコロ、、、


 「じゃあ、いくよ?」

 「うん」


 糸を振るう。キンッ!

 カーサから上の部分の神樹が鋭利な斬れ跡を残し地に落ちる。パキンッ!


 「楽しかったね」

 「うん、楽しかった」

 「我はまたハーブティーが飲みたいのだ! 蜂蜜入りのな!」

 「そうだね、私は紅茶がいいな」

 「ひどいなぁ、あのハーブティーは特別製なんだからね」

 「ふーん」


 糸を振るう。キンッ!

 カーサから下の部分の神樹が鋭利な斬れ跡を残し地に落ちる。パキンッ!

 

 ………………

 …………

 ……



 「じゃあ、これで最後だね」

 「うん」


 ………………

 …………

 ……


 「いくよ?」

 「うん。ゴメンねリン、ありがとう、、」


 ………………

 …………

 ……


 「いいよ、気にしないで。じゃあね」

 「うん、、もっと一緒にいたかったなぁ、、」

 「……」

 

 ………………

 …………

 ……


 パキンッ、パキンッパキンッパキャキャキャ!!!


 魔玉が連続で割れる。


 パキン!

 リンは錬金スキルを手に入れた!


 「リン?」

 「いいよ」


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