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神樹の巫女  作者: 昼行灯
28/32

28:問答

 こちらへ歩いてくるアテン。不意にフワリと撫でられた様な感覚に襲われる。

 (鑑定されたね)

 (うむ、上手いな)

 (クロ、魔眼は使わないでね)

 (ぬ?)

 (ちょっと、これ程上手い鑑定は味わった事ないでしょ?)

 (我はもっと上手いのに出会っているが)

 (え?)

 クロがじーっと私を見ている。ああそうか、私か、それは盲点でした。

 (けど、こちらの鑑定を察知して自爆する様な魔道具を作ってる人物だし、念のためね)

 (うむ、わかったのだ)


 それに、あのアテンが本物のアテンではない可能性がある。


 私の存在はイレギュラーだ、あのタイミングで私がここに居るのを分かっていた可能性はかなり低い。というか、もし分かっていたなら結構ヤバい状況ということになる。

 その可能性を排除するつもりは無いが、もっと辻褄の合う説明が存在する。ニーガンという人物とアテンの関係。おそらくその始末をここでつけるつもりだったと見た方がハーフエルフの発した言葉などを考えると説明かつく。


 聞きたい事を、操り人形であるハーフエルフを使い聞き出した上で始末する。もしくは、場所を移動してから始末するつもりだった。

 結界の魔道具は威力を上げるために用意したのではなく、爆発が新しい村に影響を及ぼさない為の安全装置。場所を移動して結界を貼る事で破壊範囲を限定し転移の扉も破壊しなくて済む。


 そう考えると、これはアテンの私怨。

 カーサをどうこうしているというこの時期。ただの私怨を晴らす行為に本人が出向くか?

 つまりは、目の前にいるアテンはアテンの姿をした人形という可能性もあるという事だ。


 今の鑑定でアテンに私の名前がリンという事をバラした。

 この時期に、リンという人物がここにいる。相当な偶然でもない限り、このリンと言う人物は、あのリンと言う人物だと関連付けるはず。


 どう言う選択をするか?


 無害な人間ならば、村に連れて行ってどうにかしようとするだろう。


 有害な人間ならば、魔眼を持っている様な危険な者達ならば?


 ただでさえ、先程の爆発の中無傷で立っているのだ。当然警戒はする。カーサから聞き出したリンと言う人物が一筋縄ではいかない人物だと判断されたら、関係無い場所に案内するか、もしくは、あのアテンも操り人形なら自爆してしまうか、その様な選択肢が存在しえる。


 私としてはその様な無駄な時間を過ごしたくない。このままこのアテンらしき人物にカーサのいる村まで連れて行ってもらいたい。


 それが無理ならば、早急にあのアテンを始末して自分で探すか、いや、もしあれが人形で私が手を出す事で自爆をしたならば先程の推理が間違っていて近くに村がないということになる。それは結果として一番よろしくないものだ。


 やはり連れて行ってもらうのが一番効率が良い。


 慎重に立ち回らなければいけない。



 「こんにちは」

 目の前まで近づいて来たアテンが、挨拶してくる。戦闘の間合いも何もかも無視したその行為は何を意味するのか。その笑みを貼り付けたかの様な顔からは何の情報も読み取ることはできない。


 「こんにちは、私の名前はリン。冒険者をしています」

 冒険者のリンではなく、リンという名の冒険者だとアピールする。白々(しらじら)しい会話だけど鑑定に気付いていないという前提で話を進めなくてはいけない。


 「私の名前はアテン。見ての通りエルフです。そして、ア・族の族長をしています」

 自ら自己紹介をしてくれるアテン。族長であることまで教えてくれる。


 「これはどうも、族長さんでしたか」


 「それで、リンさんは何故この様な所に居るのでしょう?」

 ニーガンや爆発とかはスルーして、いきなり私の目的を聞いてくる。


 「はい、友達のカーサを(さが)しに来ました」

 こちらも直球勝負で。


 「カーサというと、カ・族のカーサの事でしょうか?」

 まあ、名前は知っていて当然だろう。


 「はい、一月程前から行方不明でして」


 「そうですか、で、リンさんは何故この様な所に居るのでしょう?」

 うーん、そうかぁ。


 「カ・族のカーレラさんに捜索を頼まれました」

 平気な顔で嘘をつく。ここからは、ア・族は他の部族との接触を絶っていると断定して話を進める。


 「カーレラから……貴方は彼女と知り合いなのですか?」

 カーレラのことは知っている様だ、まあ、カーサの事を知っていたのだから当然か。


 さて、どうするか、

 (リン、捜索が始まっていることと、時間的猶予がそれほど無いのをアピールするのだ!)

 (んー、それにまだ特定には至ってない感じも足しておこうか)

 (うむ、)


 「はい、後から彼女達も来るはずだったのですが、、困りました」

 転移の扉があった場所を振り返り肩をすくめる。


 私が既にカ・族と接触を持っていると思わせる。そして、アテン達には残された時間がない事をアピールする。


 「何故ア・族の村に来たのですか?」

 核心だ。


 「さあ、詳しくは聞いてませんので」

 ここははぐらかす。アテンがどれほどの情報を待っているか不明な事もあるが、私も情報を待っていないと思わせた方が都合が良い。カーレラの指揮の(もと)、ア・族から捜査を開始する。私は何も詳しい事は聞かされず取りあえず現地集合で先に来てみたらこの様な状況に出くわしたと、その様に想像してくれるとありがたい。


 「……」

 考え込んでいる様だ。


 「困りました。これでは戻ることも出来ません」

 言外に責任取ってとアピールする。爆発とかそういうのには触れずに、新しい村の転移の扉でカ・族の村まで送ってくれと、連れて行く理由をこちらから提案する。


 「……わかりました。転移の扉でお送りします。こちらへ、」

 新しい村へ案内してくれるらしい。まあ、送る気は無いのだろうけど。



 これはつまり想定があってたということだ。

 訂正がなかったので、他の部族からのア・族への転移先が先ほど壊れた転移の扉のままだったという事が確定した。つまり、ア・族は相当な期間他部族との交流が無いということを意味する。ハーフエルフの存在もカーレラが知らなかった事を見るに他部族に知られていないのだろう、ア・族自体相当危ない橋を渡っている様に感じるが、そこはまあ、すぐにわかる事か。


 そう思いつつ、先を進むアテンの後をついて行く。


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