27:殺戮
獣使いネロの目が据わり、眉間にシワを寄せる。
「オヤオヤ、依頼人を殺しちゃあ困りますねぇ」
顔つきが変わるとともに言葉遣いもガラリと変わる。
「これでは契約金の残りが貰えなくなってしまう。責任を取れ」
暁の死も会話に加わる。
「そうだよ、ここは素直にオレ達に謝りなよ?」
二刀流の男が、私に言ってくる。
「へ? 私?」
「そうダヨォ」
「そうだ」
「君以外にいないよね?」
あれ、みんな同意見みたいだ。
「え? 何言ってるの? バカなの? 死ぬの?」
おっといけない。最近一言多いクロ君の影響を受けて、私までいらない一言を付け足すクセがついてしまっている。
「オヤオヤオヤ、生意気な口を聞くお嬢ちゃんだねぇ」
「フフフ、屈服させがいのある獲物だ」
「ツンデレだね。嫌いじゃないよ」
「キモ」
………………
…………
……
「ア゛ア゛!? ゴロズゾォォ!」
「殺!」
「ユ゛ルざん!」
怒らせてしまったみたいだ。別にいいけど。
(リンの挑発スキルに磨きがかかってきて、我、鼻高々なのだ!)
(挑発じゃなくて要らない一言だよね)
(くくく、一言で最高の挑発ができる様になれば一人前)
(予想以上の効果だったけどね、天魔の火筒の性能テストするから、クロは手出ししないでね)
(うむ、あのハーフエルフを安全なところに移動しておくのだ)
(うん、お願い)
元から組んでいて依頼主を殺すつもりだったのか、それとも突発的な事なのかは不明だけど、もう必要ないと判断したのだろう。……一応聞いておくか。
「別に雇い主がいるの?」
「…………」
答える気はないようだ。ああ見えてもプロという事なのだろう。
虚空から天魔の火筒を取り出す。
「……!? 銃だと!」
私の取り出した武器に驚いているご様子。
弾倉には魔玉を詰めてある。ウィリアムさんから銃使いという人の話を聞いた限りだと、もしかしたらマジックアイテムとして使う分には魔力をこめるだけでも良さそうな気がしてきたんだけど、いきなり実戦で試すわけにもいかないので今回は現在使用出来る最大威力の弾を試すことにする。
戦闘が始まる。
「オレは死神と呼ばれている。見つけられるかな?」
一連のやり取りが始まった頃に隠密を発動して姿を消したデオって人の声が前方から聞こえる。風魔法かマジックアイテムで声の聞こえる位置を操作しているようだ。
「死神の鎌からは逃げられないぜ!」
天魔の火筒を背後にむけて、引き金を引く。
ズドンッ!
それなりの音と反動が腕に伝わる。
振り返り見れば、振り上げていたのであろう鎌の刃の先端部分が地に落ちるところだった。その地面も結構な形に抉れている。
これは、刃の部分以外消し飛んだのかな?
なんか思っていたのと違う、というか、威力が大きい。あと、音も大きい。鼓膜がどうこうというのはなさそうだけど、この音では迷宮で使いづらい。使えるとしたらボス部屋くらいかな。
魔玉を使ったからこんな威力になったのか、魔石ならもっとスマートな使い心地になるのか、検証が必要だ。
「テメエ、飛び道具を使うなんて卑怯だぞ! 男なら素手で戦えやゴラア!」
斬馬刀を持ったシノスケが啖呵を切る。
次弾の装填は、引き金を引けば自動でされるのかな?
「イクゼ、オラア、男ならステゴロダア!」
斬馬刀を振りかぶりシノスケが飛びかかる。
んー、おそらく平気だろうけど、弾が発射されないと困るし。耐久テストに切り替えるかな。
引き金から指を離し天魔の火筒を握る。重さがないというのはこれはこれで心許無い。耐久力が少し心配なので魔力を通し強度を高める。
と、強化のために掛けた魔力が天魔の火筒に吸収される。あらら、これは、と思ったところで素手という名の斬馬刀が迫ってくるので、体を捌き刀の軌道から避けつつ、天魔の火筒の銃身部分を斬馬刀の腹の部分に叩きつける。刃の部分にまともにぶつけ合っても良かったけど最悪銃身が叩き折られたらマジックアイテムだからといっても、元に戻るまでに相当の時間がかかるかもしれないので、こちらにリスクの少ない刀の腹の部分にした。テレスさんなら素手で簡単に折ってしまう、斬撃よりも打撃に弱い部分だ。
魔力で強化したヒノキの棒なら刀を折ることができるが、強化していないヒノキの棒では折ることはできない。はたして、強化されていない天魔の火筒ではどうか?
バキンッと音を立てて斬馬刀が折れる。強度は問題無いみたいだ、そのまま重さが無いのを利点として、返す刀ではなく返す銃身で人の事を男呼ばわりしていたシノスケという人の頭部を横殴りに振り抜く。
ベキッグシャと頭蓋骨が砕け中身を破壊する感触が銃身を通して伝わってくる。気持ちのよい感触ではないが天魔の火筒がそれなりの強度を持っていることの証明でもある。
ひしゃげた頭部を先頭に右方向へと飛んでいくシノスケの背後に、二本の剣を構えるイキリトがスキルを発動するのが見える。これは上手い。
「これは、使いたくなかった、けど、仕方がない! いくぞ、星をも砕く二刀流の剣技、その名も、スターバーストストヘブベシャァァァ!!!」
前置きが長かったので、取り敢えず銃で殴った。そういうのは心の中で思うだけにして早くスキル発動すれば良かったのに。と思ったり。
「イケッ、黒犬!」
じろりっと私の左肩に戻ってきたクロがひと睨み。
ガブッ、ガブッ、ガブッ、ガブッ、ガブッ、ガブッ、ガブッ、ガブッ、ガブッ! と九頭の犬に噛まれるネロ。致命傷だ。
「バジリスクアイ!」
黒ずくめの男達の目が光り、九頭の犬の動きが止まる。あれは威圧系スキルだ。
「殺!」
黒ずくめの男達が九頭の犬の首を刎ねる。
「もう疲れたよぺトラッシュ……」
首のない九頭の犬に囲まれながらネロが死亡する。
キィィィィン…………
これは、結界、
(クロ、空間が閉じた)
(うむ、この感じは魔道具による結界だな、カーサの家にあったのと似ているのだ!)
(確かに、クロはハーフエルフを見ていて)
(うむ、爆発する?)
(おそらく)
「娘、素晴らしい戦闘力だ。だが!」
黒ずくめの男達の目が光る。視線によって発動する威圧系スキル。珍しいが面倒なので、そのまま魔眼で反射する。
「バシリスクターイム!」
特殊能力を持っている人間には変人が多い。一体その言葉に何の意味があるのか。
「グググ、動けん!」
少し離れた後方で異様な気配。
「リン!」
「念動力で私を浮かせて!」
「うむ!」
水魔法の水の壁で私とクロの周りを球状に包み込む。水圧を上げ、水流を作り、それを二重に張る。
音の遮断された水の壁の向こうで爆発が起こる。爆心はハーフエルフ、そして、周囲を結界で囲まれている事で爆発の威力が閉じ込められ結界に反射し前後左右、それに上下から襲ってくる。
…………
……
爆風がおさまったのを見計らい水の壁を解除する。
地面に降り立ち、周りを見れば、見事に何もなくなっている。転移の扉も消し飛んでいる。エルフにとっては貴重な物のはずだが、どのような意図か。
(リン、これは計画通りなのか?)
クロが聞いているのは、結界を張って全てを吹き飛ばす行為が、これを実行した者の計画通りの行動なのかという事だ。
(どうかな、)
グルリと周りを見渡せば、遠くで結界を解く一人のエルフの姿が、
(アイツか)
(うん、アテンだね)
(む、そうなのか?)
(うん、)
あの顔には見覚えがある。
こちらへ向かって歩いてくるアテン。
 




