18:天魔の火筒
「そうか」
その一言で、全てが許される。というわけでは無いけど、取り敢えずの免罪符。フレデリック王もこの件に関しては無理に押すより引くことを判断したのだろう。
大体にして、先日の件、説明するのが面倒くさい。話せない事だらけだし。原因に関してはヤンさんと立てた推論が概ね合ってたので、ヤンさんからおそらくとして報告はされているだろうし、そうするともう話せることは何も無い。だとしたら、記憶にございませんで通せばいいだろう。
「リン様、、」
ヤンさんが食い下がる。
「はい」
「お記憶が無いのは残念です。しかし、おそらくですが、リン様はあの迷宮のボスを倒したのだと思われます」
「はあ」
思われますとか、少し持って行き方が強引だなあ。布石かな?
「迷宮の入口を覆っていた障壁が無くなってから我々も迷宮に入りましたが、既に事が終わった後のようでした。現在は迷宮も消えてしまって、調査のしようもありません」
「消えてしまってよかったですね」
「はい、それでなのですが、先ほどの私の推論ですとリン様は何か戦利品を手にしているのでは無いかと思うのですが、如何でしょうか?」
そういう事かあ。
(クロ、これは?)
取り敢えず、あの時起きていたというクロに聞く。
(うむ、カマ掛けではないか? コイツらは天魔の剣と天魔の火筒の存在を視認しているはずなのだ)
(鬼の角は?)
実は最初気付かなかったけど、あの時死んで消えた酒呑童子と茨木童子のツノが戦利品として手に入っているのだ。
(それは知らんと思うのだ。我も気付かなかったし!)
(ふーん、そっか)
見られているならば、隠す方がよくないかな。どのみち天魔の火筒は通常使いの武器として運用しようと思っていたし。まあ、ないと思うけど良い武器だから没収とかは、専用武器なので私以外が使うことは出来ないという理由から無いだろうし。
えーと、どうしようか。
アイテムボックスのスキルは持ってない設定なのでいきなり虚空から取り出すことは出来ないし。専用武器だからそういう設定にしてもいいかとも思うけど。他にも専用武器は存在するだろうから矛盾が出る可能性はあるけど、今後を考えたら出し入れ自由という設定は取扱上非常に便利だ。一応スカートの中に魔王のローブとかをしまった設定の小さな魔法のポシェットがあるからそこから出すというのもありだけど。
……虚空から天魔の火筒を取り出す。
「オォ、」
「それは、」
驚きの声が上がる中、天魔の火筒を王様の前のテーブルに置く。
「銃か、」
そう呟きながら王様が天魔の火筒をマジマジと見つめる。
見た目は、信長の武器という事で種子島と呼ばれる銃を連想していたのだけど、それよりも西洋風の種子島の元となったマスケット銃に近い、それも飾るための意匠の施された装飾品みたいな感じ。信長が持っていた時は黒い銃身に赤い炎の意匠の禍々しいモノだったけど、私が手にした途端白金の銃身に変化した。長さは藤原くんの持っている童子切と同じくらい。形も鞘にしまった童子切から鍔を無くして反対にしたみたいな感じ。結構大きい、けど専用武器だからなのか重さを全く感じない。
変わった点としては、リボルバー式? という事。七発装填できる弾倉が存在する。
手持ちの弾丸。私はある敵を倒した時にその人のアイテムボックスの中身を全て引き継いでいるんだけど、その人の持っていた銃火器一式と爆発物とか色々を持っている。では合うものが無くて、実弾を使うには専用の弾丸を作成しなくてはならないらしい。では使えないのかというとそうでもなく、試しにとやってみたところ魔石と魔玉が装填出来た。なら実弾は必要ないと思うけど、クロ的には魔力を屈折させて当たらなくする敵が出てくるはずだから絶対に実弾は必要なのだとの事。それはどんな敵なのだと問いたいけど、まあ実弾もあって損は無いし、カーサが戻ってきたら錬金で作ってもらおうかと思っている。ちなみに実弾だけでいうならば手持ちの自動小銃とかを使った方が連射も出来るし実用的なんだけどね。ちなみにちなみに天魔の火筒、まだ一度も撃った事はない。
席を立ってヨランさんが興味津々に眺めだす。
「これはマジックアイテムですね。しかも銃とは珍しい」
「そうなんですか?」
「はい、銃のマジックアイテムはほぼ市場に出回りません。迷宮からドロップする絶対数が非常に少ない品です」
「へー、普通の銃って普及しているんですか?」
「いえ、銃の性質上。戦争のしかも地上戦でしか使い道がありませんからね。それに銃で担保される戦闘力程度ならば普通の騎士には通用しませんし、」
「そうなんですか」
「はい、それに一般への普及は国が規制しています。このような誰にでも簡単に人を殺せるようになる道具、害悪でしかありません」
んー、これは魔術を生業とするヨランさんの私見が混じってるように感じるけど、まあそうだね。
強いものが強く、弱いものは弱いこの世界。
「銃が普及している国家とか無いんですか?」
「あります。酷いものです」
「そうなんですか?」
「はい。バランスが崩壊していますからね。些細な事で人が死にます。それに、老若男女の区別無く戦争に参加させられます。戦える者が戦うのではなく全てのものが平等に戦い死ぬのです。狂っています」
強いものが弱いもの守り、弱いものは強いものを支える。銃により全てが強いものになった場合全てが崩壊する、ね。バランスか、難しいね。
「生命が軽くなる」
うーん、とても素晴らしい言葉なんだけど、人の命を何とも思っていない貴族の人達が蔓延る現状を鑑みるに、その言葉自体に重みを感じないというのが困ったところだよね!
けど、確かに、一部の頭のおかしい貴族の蛮行を除けば、このローランの街でスキルという特殊な力を持ってない人達が平和に暮らせている。貧民街には綺麗とは言えないが井戸による水源の確保、市民街は魔道具による綺麗な水の供給、そして町の機能を維持するための各種職業、力の無い貧民街の人も頑張れば市民街に移住することも可能、少しでも戦う能力がある者の行き先は盗賊や野盗ではなく冒険者になるという道がある。
銃規制か、確かに銃火器で武装した野盗とか現れたら洒落にならない。それに銃によるパワーバランスの崩壊は商隊の護衛をこなす等の冒険者の存在意義を喪失させる。もしかしたら、銃に関しては冒険者ギルドも何か対策をしているのかもしれない。
「ウィリアムさん」
「はい。何でしょうか?」
「冒険者ギルドも銃に対して何か対策をしているのですか?」
素直に聞いてみる。
「いえ、特にこれといった事はしていません。ただ、銃使いに関しては冒険者ランクの審査を少し厳しくしています」
「え、そうなんですか?」
「はい。管理迷宮に潜れるようになるDランクの試験では武器として通常の銃の使用を禁止しています」
「マジックアイテムならいいんですか?」
「はい。こういっては何ですが、冒険者が使う武器として通常の銃は不完全すぎます。弾数制限に壊れ易さ、一番の欠点は発射音ですね。迷宮内で使われると耳が聞こえなくなりますから論外です。迷宮探索で銃使いとパーティーを組む冒険者はいませんので自然とソロとなりますが、生還率が非常に低くなります」
聞いてみると、なんだか欠点だらけだ。
私は、持ってもほぼ重さを感じないことから人前で使っているヒノキの棒替わりに使おうかと思っていたんだけど、銃身で人を殴ったらやっぱりダメなのかな?
発射するのが実弾じゃなければ気にする事ないのかな? 暴発とかやだなあ。重さも無いし、最初は暴発しないか糸で操作してみてからにした方が良さそうだなあ。
「銃って、弓術スキルでいいんですか?」
「はい。弓術で大丈夫です。銃使いの冒険者で弓術が銃術に変化した者もいます」
「あ、銃使いの冒険者も存在するんですね」
「はい。運良く弾数無制限のレア銃を手にした冒険者が極めていますね。実弾を使わない銃は発射音もほぼありませんし、遠距離武器として最高の部類に入りますね」
「おー、じゃあこれも?」
「はい」
私は良い物を手に入れたみたいだ。
 




