17:晩餐会
長方形の長いテーブルに着く。
並び順は、一番奥がフレデリック王、そして、私とヨランさん、ウィリアムさんとテレスさんの二組に分かれて座るかたち。
私はローラン側という配置。まあ、お披露目式とかやった関係もあるし、こういう形になるのか。席に座ってはいないけどこの場にはヤンさんも居る。参謀の様な立ち位置なのか、王国という性質上表立った相談役みたいな職は存在しないのか、それともフレデリック王がワンマン体質なのか、私の王族入りも相談無しで一人で決定していたようだし。権力の一点集中というのは有能な為政者ならば素晴らしい統治をもたらすけど、無能な者がなった場合は目も当てられない。その現象は国単位では無く貴族単位では既に起きている。
ぴょんとテーブルに乗ろうとするクロを下から手を広げ、はっしと捕まえる。
(ぬ、なにをするリン、は〜な〜す〜の〜だ〜!)
私にお腹を掴まれた状態で、両足をバタバタとさせて遊んでいる。逃げる気はないらしいけど。
(いや、流石に食事前のテーブルに乗るのははちょっと不味いと思うんだけど)
王様がいる食事の席、食後ならなんとかあれだけど食前に飛び乗るのはちょっとなあ。
(前例があるのだ!)
王様のいる食事の時にテーブルに乗った前例?
(あったっけ?)
(カリカリベーコンを貰ったのだ!)
(んー、そんな事あったっけ?)
(有ったのだ〜、は〜な〜す〜の〜だ〜!)
うーん、と悩んでいると。
「よい。リンの席にもう一つ、食べやすく切り分けたものを用意せよ」
とのこと。いいの? と思ったけど王様が良いと言うならば良いのだろう。
(ちょっとクロ君、お行儀良くしてね)
(うむ!)
私の隣、テーブルの上にちょこんと座るクロ。お行儀が良いというか、可愛いらしい。
前菜が運ばれてきて、食事という名の報告会がはじまる。
先ずは、ヨランさんから。
宮廷魔術師の配置状況から始まり、魔術開発の進捗、作成魔道具の配備構想。ここでいう魔道具は、錬金スキルにより創造される高度な魔道具ではなく付与魔法と魔石を組み合わせる事による魔石の交換等メンテナンスが必要な魔道具。これは主に公共施設の基幹部、例えば水魔法を付与した魔道具は井戸等で水源の確保ができない地での水源として、魔石から魔力供給をする事で恒久的に水を発生させるものだったり。上級士官へ貸与される特別制の装備品だったり。
数のそれほど多くない宮廷魔術師を、比較的良好な友好関係が築かれつつある隣国カーライルとの国境の砦に常駐させておくべきかどうか、少し前まではよく小競り合いが発生し小規模ながら戦闘が発生していた為、エリック王子もほぼ常駐する事になっていた砦。当然その様な場に派遣される魔術師は、宮廷魔術師の中でも手練れの者達が駆り出される。ヨランさんとしては膠着状態が解消されているのならば、有能な人材は呼び戻し魔術開発の部署に異動させたいという意見のようだ。
「平和に見える時こそ、広く物を見えるものが必要だが」
小競り合いという分かり易い事象が起きなくなった事で、最前線である砦には、わずかな変化に気付ける目を持つものが必要と。
「連絡用の魔道具の使用を許可いただけるならば、我々の中の目の利く者を派遣することも出来ますが」
と、ヤンさん。
「持ち帰ります」
と、ヨランさん。
当然ながらというか、やっぱり一枚岩というわけでは無いのね。それぞれに譲れない権利や装備が存在するんだね。ヤンさんはもっと魔道具を有効に使い手に入れる情報を広げたいと思っている一方、ヨランさんはこれ以上の暗部の権力拡大は良くないと思っている節がある。フレデリック王は特に気にした様子も無いのは、それ自体は正しいという判断なのか。
「カーライルなのですが、国としての動きが無い分、民間の動きに不穏な部分が散見されます」
ヨランさんの報告に関連したこととしてヤンさんからの意見。これは王族を拐おうとしてみたりとかかな?
「国が関与している可能性が有るのですか?」
「不明です」
この即答はいわずもがな、関与してても尻尾は出さないという所だろう。揚げ足を取るでも無いが、わからないという事をわざわざ責める人はいない。分からない事が判っているのだ。話の流れで偉い人にこの部分が理解できない人がいると話が中断する。
次は、ヤンさんが、ローラン貴族の素行を悪い順に発表していく。そこまでわかっているならどうにかすればいいのに、と思う案件がいくつかあったけど特に口を出すことでも無いし黙っておく。わかっていてもどうにもならないことなんだろう。
ウィリアムさんからは、冒険者ギルド側から見た各町の現状が報告されていく。ヤンさんから出てた素行の悪い貴族の治める町は、同じような報告があったり、全く平和でとても良いなどというおかしな報告もあったりした。
ある意味、答え合わせのような報告会。
なぜワザワザこのような事を私の前で行うのか。いつも行っている報告会に今回はたまたま私も参加したというだけなのか。言外にその素行の悪い貴族に絡まれに行けと脅されているのか。
いずれにしろ、甚だ迷惑な話しである。
クロも飽きたのか、テレスさんのところに遊びに行ってしまっている。
私も飽きてしまった。
「で、何があったのか」
気を抜いた途端、王様からいきなり話を振られた!
ここは、何がですかと聞くべきなのか、それとも、主語がない事はスルーして話を進めるべきなのか。いやこれは聞かせる事で話の主導権を握ってくる高等テクニックと勝手に判断してこっちも話しを加速させてしまおうか。
「はあ、憶えてません」
前回の失敗を踏まえて、そして設定を考える時間もないことから記憶喪失で通す事にした。何処の世界でも記憶にございませんは最強なのではと思う次第。
真っ直ぐこちらを見つめる王様。その瞳は静かで落ち着いている。
「…………」
無言のプレッシャーが、ヒシヒシと伝わってきます。しかしここは華麗に受け流す!
心の中まで見透かされているような真っ直ぐな視線に、こちらも真っ直ぐな視線で見つめ返す。
「…………」
そして無言のプレッシャーは前後左右に受け流す!
何も憶えていないという設定、単純な分見つめ返す視線に迷いが入る隙間が無い。これは素晴らしい。記憶にございません最強説!
「そうか」
そうです勝ちました!
 




