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神樹の巫女  作者: 昼行灯
13/32

13:舞踏会

 宮廷舞踏会。

 ただの舞踏会ではなく、フレデリック王主催なので王宮というか宮廷になるのかな、で行う舞踏会。

 舞踏会の中でも一番格式の高いものになるらしい。


 全く関係無いと思っていたので全然情報を仕入れていなかったのだけど、一大催しとして相当数の貴族の人達が王都に来ているみたいだ。


 その人達の前に晒し者になるということか、憂鬱だ。


 (リン、ここで確執イベントが発生する仕組みだな!)

 (嫉妬されて意地悪されるとか?)

 (うむ! 楽しみなのだ!)

 (なんで楽しみなのさ? だけど多分そんなイベント起きないと思うよ)

 (なぜ?)

 (え、だってこっち王族だよ、意地悪とか出来る人いないでしょ。みんなこっちの味方につくの分かってるのにそれをわざわざやってくるおバカさんは、ねえ)

 (くくく、フラグ成立なのだ!)

 (えっ!)


 エリック王子に連れられてフレデリック王と合流する。

 「美しいな」

 しばらく私を眺めた後のフレデリック王の言葉。

 「お褒めに預かり光栄です」

 流石に、王様に向かって「どうも」とは言えないので定型文章を返しておき、スカートの裾をつまんでお辞儀する。合ってるかどうかはわからない。


 ぽてっと、スカートの中からクロが落ちる。


 「……」

 「……」

 「……」


 きょろきょろと周りを見回し、さささっと素早くスカートの中に潜り込むクロ。


 「……」

 「……」

 「……では、行こうか」


 皆一様に、何も見なかった事にしてダンス会場である大広間へと移動する。






 ダンスホール。

 大広間は、名のある貴族の当主と奥方、そして子息、なかでもここに出席出来るのは家督を継ぐ男子、そして、息女を一名のみの一貴族で最大四名だけ出席が許されている。


 主催であるフレデリック王を含む王族がまだ会場に現れていないことから、今は各貴族の挨拶回り時間となっている。公の場でこれだけの大貴族達が一同に介することなど早々に無い為、砕けて言えば親同伴のお見合いパーティー状態で、目ぼしい貴族の次期当主や、関係を結びたい貴族の御令嬢を見つけてはそれぞれの思惑を隠しつつ挨拶を交わすという状態が続いている。


 他愛の無い会話、世間話の中心は当然リンである。

 今回の舞踏会は新しい王族のお披露目、リンの公の場のデビューのために開かれたものであるのは皆が承知する事実。

 リンの存在に関しては、有力貴族には内々に通達されていた事もあり、表立って話す者はいなかったが貴族間では有名な話であったからだ。


 女性である以上、一族に迎え入れる方法はいくつか存在するのだが、個人として王族の序列に加わるというのは相当な実力の持ち主という事だ。


 光魔法を極めた冒険者だという噂。


 名誉あるローラン学園の教員であったという噂。

 しかも、光魔法を潜在的に持つ者への素晴らしい指導で新しい光魔法使いを続々と誕生させたという、ここに出席している貴族の子息にも生徒が居たという事でその噂の信憑性は高く、素晴らしい指導者だという噂も立っている。


 それに加えて、遠征に同行すればその類稀な光魔法によって死者が出ない等々、枚挙に(いとま)が無い。


 しかし、良い噂しかない。

 当然だ、この様な場で王族を貶める話をする愚か者など存在しない。

 実際に、リンと対立して没落した大貴族が存在している。これは皆が知る事実。当然その一族はこの場に呼ばれていない。


 だがしかし、話が出ないからといって邪な事を考える者は存在する。

 素晴らしい才能の持ち主だとしても、所詮は女一人、しかも個人戦闘に向かない光魔法使い。冒険者稼業も続けているという話もある。もし自分の領地に単独で来ることがあれば、無理矢理にでも城に招待しどうにかしてしまおう。こういうことは既成事実がモノをいうのを実践してきた経験でよく理解している。


 愚かな事である。

 この様な輩は、血による世襲を続けている貴族に多い。何の努力もせずに手に入れた力を己のものと勘違いする愚かな者達。

 少しでも目端の効くものなら、冒険者稼業も続けていて、単独で行動する事もあるなどという情報を疑う。まるで襲ってくれと言っている様な情報だ。発信源は何処なのか? 考えるまでもなく国自体の関与を疑う。

 その様な意図的に流されたとおぼしき情報を鵜呑みにして行動を起こしたらどの様な結果が待っているか、領地をろくに管理出来ない無能な貴族が増えてきている。特に無能な世継ぎに家督を譲る大貴族にその傾向が顕著に現れている現在、新興貴族への領地の再分配が望まれている。もし爵位を与えられ領地も与えられた新たな貴族がいたとしたら、その者の王家への忠誠心は如何程のものか、無駄に増長している大貴族の存在よりも貴重な、ローランという国家に加わる新たな血、その為の布石。


 事実、ズヴァール家は領地の大半を国に没収され、ローランいちを誇っていた権勢は今や見る影も無い。


 新しい王族の名を借りた、フレデリック王による貴族に掛けられる(ふる)い。この舞踏会はその様な意味も含まれていると見ている貴族も少なからずいる。


 貴族の嫡男に中には、冒険者風情が自分が継ぐよりも大きな権力を継ぎやがって、しかも女の分際で、生意気だ。と思っているものも少なからずいる。


 美しく着飾った貴族の御令嬢達は、色目を使って取り入った売女としか考えてない、直球で思考がソレに到達している時点で、自分の思考が売女のソレである事を理解していない愚かな御令嬢も少なからずいる。


 そして、裏の情報に精通している者は、調整の完了した勇者なのではないかと疑っている。

 カーライル王国へ嫁いでいったイレーヌ姫の行った勇者召喚、失敗だったとの公式発表だが、その貴重な個体が有力貴族や教会などへ譲渡されたというのは裏の世界では有名な話だ。その中でも当たりの個体をローランの所有物として調整を行い、それが完成したという事なのではないか? 今回はそのお披露目。そう思っているものも少ないがいる。

 


 その様な、さまざまな思惑が渦巻いているダンスホール。

 「国王陛下のおな〜り〜」

 その言葉と共に、静まり返るダンスホール、そして、玉座につくフレデリック王と隣に立つエリック王子、そして、、一同は言葉を失う。


 皆が一様に抱いていた思い。王族に加わる以上さぞかし美しいのだろう。


 それが一瞬で吹き飛ばされる。


 美しいなどというレベルの話ではない。白銀にたなびく美しい髪、抜けるような肌の白さ、そして純白のドレス。まるで光の精霊が出現したかのような、その幻想的な姿は、そう。


 存在自体が神々しい。


 男達は清廉なその姿に、自分の愚かな心を恥。女達は自分と同じ次元で比較しようとしていた事に、自分がこの場にいる事自体の羞恥心に真っ赤な顔で俯き、情報通は黒髪でないその姿に己の情報が全く間違っていた事を思い知る。


 見た目の衝撃だけで、全て想像を上回る。

 その少女の存在もさることながら、日頃からのフレデリック王の采配を知るもの達は、やはり、と納得させられた事に改めての驚きを感じずにはいられない。


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