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神樹の巫女  作者: 昼行灯
11/32

11:道行き

 宿の前につけられた質素な馬車に乗り込む。

 王族が使う馬車にしては質素過ぎると言われるかも知れないが、これは目立ちたくないという私の意見を取り入れた結果だ。


 乗り込むとそこにはいつも私を護衛してくれているヤンさんがいる。

 「どうも、こんばんは」

 「リン様、御機嫌麗しく」

 御機嫌麗しくとか言われちゃった。


 ほとんど揺れることなく進む馬車、さすが特別性は作りが違う。と思いつつ質問をする。

 「あのー、今夜舞踏会があるとか聞いてないんですけど」

 素直に不満をぶつけていくスタイル。

 「アア、安心して下さい。リン様は御出席する必要はありません」

 目が泳いでる。

 「嘘、ですよね?」

 「エエ!? そんな事はありませんよ」

 「ヤンさん嘘下手すぎません?」

 「あー、チクショウ。だから無理だっていったんだ。そうです、舞踏会があります。リン様も出席予定です」

 「出たくないんですけど?」

 「無理です。フレデリック王の決定ですので」

 「えー、なんか体調が優れないんですけど」

 「ご自分の光魔法で治してください」

 「えー、ひどくないですかそれ」

 どうやら私は王様に騙されていたらしい。


 「この前の件の報告とかじゃないんですか?」

 「リン様、何も話す気ないですよね?」

 「なんで質問に質問を返すんですか?」

 「え、じゃあ、素直に全部話してくれるんですか?」

 「だから、質問に質問返さないでくださいよ?」

 「じゃあ、私の質問に答えてくれるんですか?」

 「やです」

 「ひどくないですか?」

 「え、何がですか?」 

 取り敢えず形勢を逆転しておく。


 うーん、なんだろ。

 私が舞踏会とか出ても意味無いと思うんだけど。

 「イレーヌ姫のかわりとか? けど私王家の血筋とかじゃないですけど」

 「血筋で言うならフレデリック王も、ローラン王家の血は入っていませんよ」

 「え、そうなんですか?」

 「はい、建国の血筋は何代か前に既に途絶えています」

 「そうなんですか、意外です」


 「けど私、政治の道具にされるなら居なくなりますよ?」


 ハァァ〜とため息をつかれる。

 「私の前でそんなこと言わんで下さいよ」

 「はあ、王様の前でも言うと思いますけど」

 「本気で勘弁して下さい」


 「フレデリック王にはヤンが説明していると思うんで、居なくなるとかそういうのは本当に言わんで下さい」

 ここに出てくるヤンさんは、もう一人の頭脳派のヤンさん。実質トップの人だと思う。

 「はあ、別に波風立てる気はないんで、あれですけど」

 お願いしますと頭を下げられてしまう。



 「そういえば、あの時何かあったんですか?」

 あの時というのは、先日の件の私が気を失っている間かな、なんか態度がよそよそしかった。今もなんか微妙に敬語だし。

 「何も聞いてないんですか?」

 「え、誰に?」

 「いえ、」

 (リン、)

 クロが念話してくる。

 (ん?)

 (リンが気を失っている間にコイツらが迷宮に入ってきたんで、敵意のある奴を何人か我が焼き殺したのだ)

 (そうなの? あ、私の糸が出てたのもそのため?)

 (うむ、リンも無意識下で危険な奴等を斬り刻んでたのだ)

 (あー、隷属関係の術式を行う人達?)

 (うむ)

 (そういう事か。聞いてないっていうのは?)

 (小僧だ、アイツもリンにちょっかいかけようとして糸で腕を落としていたからな)

 (え、そうなの?)

 (うむ、ダサいから秘密にしようとしてたのだ、隠蔽工作なのだ!)

 (フジワラ君そんな事しようとしてたんだ)

 (うむ、ヤツはただのエロガキ)

 (えー、じゃあ修行っていうのも?)

 (うむ! 我は秘密にしようとしてたのだが仕方あるまい! ヤツはその事実が恥ずかし過ぎてリンに近づけない、ソレが真相なのだ!!!)

 (えええー、そうだったの! 別に気にしなくても良いのに)

 (リン、甘やかしてはダメなのだ! 今度から小僧を見るときは生温かい目で見るのだ)

 (え、生温かい目って、どんな目なの?)

 (こんな目なのだ!)


 なんだかクロが生温かい目で私を見てくる。


 グリッと思わずその目の端を吊り上げてしまう。と、ぱくっと指を咥えられてしまう。

 (いきなり何をするのだ!)

 (え、なんかイラッとしてつい)

 (ふふふ、これが生温かい目の効果なのだ!)

 (え、普通に嫌なんだけど)

 (それがいいのだ!)


 ヤンさんが、何があったか話してくれる。

 「言える立場で無いのは重々承知してますが、アイツのこと許してやって下さい」

 もう一人のヤンさんのしている事について、自分も承知していた事だと素直に打ち明けてくる。なんか、向いてない人だなって思ってしまう。

 「気にしてないんで大丈夫です。それに当然の采配だと思ってますので、そちらの立場だったら私も同じことしてると思うので、本当に気にしないで下さい」

 「…………ありがとう御座います」

 「あの、私にやる分には良いんですけど、周りに迷惑かけるのはやめて下さいね。これはお願いです」

 「…………わかりました」

 この間はなんだろ?


 「あ、もしかして、これもヤンさん予想してました?」

 あちらのヤンさんは、人の思考を読むのが得意なひとだった。遊びでその人がなんて言うかを当てていると聞いている。

 「いえ、流石にそこまでは予想していません、アイツも少し動揺してましたし、しかし、リン様は気にしていないと言うだろうというのは当たっていました」

 「よかった」

 「え?」

 「いえ、いつも通りでよかったです」

 「ハハア、ハハ」

 「え、どうしたんですか?」

 「いえ、楽しみが出来ましたので、リン様がよかったと言ったとヤツに伝えたらどんな顔をするかと」

 「ああ、予想外だと?」

 「ええ、もしかしたら負け惜しみで、それも予想していたとか言い出すかも知れません。ハハ、楽しみです」

 ヤンさんはヤンさんの嘘を見抜けるのか、それだけ付き合いが長いと言う事なのだろう。


 クロが生温かい目でヤンさんを見つめている。


 「…………」

 「…………」

 「…………リン様、あの、」

 「ああ、はい。こらクロ、やめなさい!」

 「にゃん!」


 密かなマイブームになりそうなので、クロには生温かい目禁止令を早々に発動する。

 ひどいニャン!


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