Episode4…魔王幹部
キングゴブリン討伐の時見たあのアグネスのスキルはまだ解読不能。
驚きのあまりキングゴブリン討伐は放棄。
普通、レジェンドスキルを所持できるのは運営から認められたプロプレイヤー、運営側の知人、そのくらいだろう。
どちらでもなさそうなアグネスが所持しているのは皆目見当がつかない。
色々考えてみたがその二つしか思い浮かばない。
それに、アグネスが所持していたレジェンドスキルはハッキリ言うと超強い。
家政婦以外のステータス値は初心者程。
なのにあれ程までの火力を起こせるのは何故だ。
もし、アグネスの魔法ステータス値がカンストした時にはあの技は今以上に跳ね上がる程の火力を発揮するのか?
だとしたら宝の持ち腐れ。
宝と言うには尊いが、魔法の中では最強クラスであろう。
アレは俺らのチートスキルよりチートだ。
倉山さんの【ブラックアウト】もそうだが俺らプロより良いスキルを貰っているような気がする。
犯人は何かを企んでアグネスを領主の下での奴隷としたのだろう。
何故わざわざアグネスにチートスキルを……
これ以上考えたところで何も思い当たる事はない。
これから頻繁に、アグネスを連れてクエストを受けるか。
そしたら何か分かる事が一つでも見つかるかもしれない。
「アグネス、お前他に所持しているスキルはあるか?」
撲殺用の氷隕石はなるべく使いたくないからな。
聞いておいて損もない。
「この前、知り合いのサキュバスから頂いた【お色気】ならあるけど?」
【お色気】相手の集中力を奪い、自分の虜にする。
お色気か。
村人から稀にサキュバスの撃退、討伐依頼が出る。
受けてはみるが毎度、毎度、お色気を使われ、逃げられてしまう。
それだけならいいのだが奴ら煽りに戻ってきてはまた拠点を作る。
それの無限ループだ。
防ぐ為には、完全に存在をこの世から消す事だな。
まぁそれが出来たら誰も困っていないのだがな。
サキュバスとはとても面倒くさい存在なのである。
そんなサキュバスと知り合いとかアグネスは本当に何者なんだ。
どちらにせよ、お色気は使い道によっては役に立つ。
得ていて特に損はないだろう。
ただ弱点としてはプレイヤーにしか効果がないことだ。
「他には?」
「ない」
馬鹿火力の魔法とお色気。
こいつ一人にしたら何も出来ない事を肝に銘じておこう。
火力押しなら俺とマナミとアグネスが有効、壁役はチヒロ、チヒロの支援は魔法マニアの二人に任せよう。
戦略的には問題なさそうだ。
あとはどれ程アグネスと連携がとれるかが問題だ。
ヘマしてあんな隕石頭上に落とされでもしたらひとたまりもない。
それか、ボス戦までアグネスは後ろで待機して、ボス登場に開幕撃たせるか?
外道な妄想を繰り広げアグネスを物としか思っていない俺がいた。
お色気に関してはどういう場面で使うべきだろうか?
PK戦に持ち込まれたら使うの以外に使い道はあるだろうか。
モンスターに効果がないのはな……
まぁいずれ使う日が来ると願おう。
でないと取得して貰っている意味がないからな。
「ナイトが現れたぞ!」
突然、街人の声が上がる。
それも冗談で言っていい事ではないこと。
ナイト、街人はそう呼ぶが、正確には魔王幹部の事である。
ナイトといえば俺ら含め三組のギルドが壊滅させた筈。
無論、魔王は俺らが仕留めた。
俺らのステータスがリセットされた事によってゲーム設定じたいもリセットされているのか?
だとしたら今の俺らでは到底敵う相手ではない。
プレイスタイルで劣ることはないだろう。
だがステータスの問題である。
どれだけ街のみんなで打撃、魔法を与えても削れるのは最高で四分の一くらいだろう。
せめて後一週間ほどあとであればまだ何とかなったかもしれない。
この中でレベルが高い奴でせいぜい40程だろう。
魔王幹部一人に大体予測される適正推定レベルは80。
レジェンドスキルで仕留めれるかもあやふやなところだ。
レジェンドスキル?
レジェンドスキル……
あ。
アグネスのあのチート技使えば割と楽に仕留めれんじゃね?
プラス倉山さん居れば勝ち確じゃね?
神ゲーかよ、おい。
街の人の話によると街を出て直ぐの高原まで攻めてきているようだ。
なるべく忙ないと手遅れになる。
倉山さんとアグネスに話をつけ、高原へ向かった。
「ブラックナイト」
黒の騎士。
魔王幹部は別名四天王とも言われている。
その名の通り四人の幹部から成り立っているからである。
その中の一人、幹部の中では一番恐れられている存在のブラックナイトと最初に戦闘になるとは。
ちょっとマズイかもな。
他の幹部ならまだしもコイツに関しては推定レベルが90だった筈。
アグネスの一撃で粉砕できるかも分からなかったのにコイツが相手だと更に不安が増す。
ゲーム内に閉じ込められて7日目にして幹部長と戦闘とは。
クソゲーだぞこんなの。
「おい」
低い声が耳筋を渡る。
流石は魔王幹部。
その声を聞くだけで……
鼻くそほじりたくなる。
見たところアグネス以外はそんな表情をしている。
人というものは自分より弱い者に興味はない。
一度リンチにした幹部を前にしても俺らは今更ビビリなどしない。
だが勝ち目が薄いのは明確だ。
確かブラックナイトはスキル【汚染】を持っている。
【汚染】周囲に毒ガスを放つ。
毒耐性など微塵もない俺らにそんなスキルを所持している相手を倒そうなんざ二週間は早いわ。
「おいってば」
「なんだよ」
何か言いたそうなブラックナイトは無視されて何故か拗ねている。
「俺は貴様らと戦う気などない、だから俺をぎ…にい、ないか?」
モゴモゴしていて聞き取れない。
だが今戦う気はないって言ったよな。
敵対心がないならなぜここへ。
「なんて?」
「だから……」
何が言いたいのだろうか。
これが本当に街の人に恐れられていた魔王幹部なのだろうか。
「俺を冒険者としてギルドに参加させてはくれないか?!」
勢いよく出たその発言に、俺らは揃えて首を傾げた。
ギルドって、ブラックナイトが?
冒険者に、魔王幹部が?
そんな馬鹿馬鹿しい話など聞いたこともない。
「どういう魂胆だ? 何が目的だ?」
チヒロが問う。
「何も企んだりなどはしていない! 証拠にこれを見てくれ」
ブラックナイトが見せてきたのは自分のステータスだった。
モンスターにも自分のステータスをみれる機能あったのか?
細かい事はいい。
「え?」
声をあげたのはアリサだった。
次いで俺もステータスを見る。
え?
俺はその時察した。
「お前ってプレイヤーなのか?」
俺らと同じようにステータスの数値が最小値まで下がっていた。
ステータスが下げられたのはプレイヤーのみの筈。
ゴブリン達はステータスは下がってはいなかった。
つまりこの幹部がプレイヤーという事になる。
「いや、違う。 俺はお前ら冒険者に敗れ、ステータスが最小値まで落とされていたのだ」
それはつまり複数存在しないコイツは俺らに倒されてステータスが落とされたということなのか?
だとしたらゴブリンのステータスにも納得がいく。
ゴブリンはこの世から消滅しない不死身のモンスター。
何度もリスポーンしているアイツらは別のゴブリンとして生まれ変わっていたのか?
そう思うと何故かゴブリンに同情してしまう。
「でもなんでお前は冒険者に?」
問うと一瞬口をモゴモゴさせた。
ツンデレか?
口ごもる幹部をみて複雑な気持ちが連鎖される中、その幹部は口にした。
「冒険者というよりかは、使い魔として置いておいて欲しいのだ!」