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Episode2…少女とご飯

……女の子?



棺桶の中には、綺麗な金髪が神々しく、年は中学生くらい、透き通る白い肌の美少女がいびきをかきながら爆睡していた。


鼾。


美少女とはいえ、不潔さを少し漂わせるだけでも印象が崩れるものだ。


それにしても何故こんなところに、そして何故俺の部屋に。


皆目見当つかない。


覚えのない棺桶、そして初めて見る美少女。


平らだな。


起こすべきなのであろうか。


突然襲いかかってきたりは、しないよな。


とりあえず……






俺はそっと蓋を被せた。


見なかったことにすればいいんだ。


俺は何も見ていない、棺桶なんてなかった、美少女なんて入ってなかった。


よし。


「ご飯できたよー」


ドアの向こうからアリサからの夕食の声がかかる。


夕食?


確かこのゲームでは食べ物は食べなくても……



グゥゥ



空腹を感じる。


ゲームの世界なのに空腹を感じている。


どういう事だ。


こっちの世界へ閉じ込められた事によって本体もここにいるような仕様になったのか。


まぁ、どちらにせよ腹が減っては戦はできぬだ。


俺はアリサに、リビングらしき部屋へ連れられた。


行くと、そこには三人も椅子に腰を掛けていた。


三人も俺同様、ゲーム内での食事など初めて、どこかソワソワしていた。


「飯ったち何か作れんのかお前?」


煽るような言い方で、チヒロが問う。


無論、その煽りにアリサは乗った。


「馬鹿にしないでよね! これでもオムライス作れるんだから!」


どうしてだろう、まだ献立や料理を見ていないのにその一言でアリサ以外の顔が歪んだ。


「ア、アリサ、私、手伝おうか? 暇だし……」


額に妙な汗を浮かばせマナミが声をかける。


「ううん。 大丈夫! 私のフルコースで皆んなの舌を一目惚れさせてあげる!」


必死な誠意にマナミも敗北した。


ヤバイ。


コレは確実に不味い飯落ちパターンのやつである。


恐る恐る、煮込む鍋をマナミが覗き込む。


矢先、青ざめた顔のマナミがこちらを振り返り、『これは食い物ではない、人知を超えた何かだ』とアイコンタクトを俺に送った。


調理するアリサのその背中は、何かヤバイものを合成している魔女に見えた。


チヒロが立ち上がる。


「俺、腹痛いから今日は寝るわ」


煽った本人も、流石に命を危険に晒すと感じたのであろう。


次いでポアルも立ち上がる。


「僕もお腹空いてないからまた今度ね」


絶対に食べたくないという感情が込められた硬い表情が二人ともから浮かび出ている。


マナミに関しては立ったまま死んだフリをしている。


「チーくん安心して! これを食べたらきっとよくなるよ! ポアルも一口食べたら手が止まらないから!」


言いながら、完成した闇鍋をアリサが運んでくる。


俺はこの場をどう回避するかに思考が回っている。


考えている暇などない。


食えば一貫の終わりだ。


すると、チヒロとポアルが俺の肩に手を添えた。


怒らすと面倒だと悟った二人は俺に苦笑を向けた。


食っても死ぬ、食わなくても死ぬ。


クソゲーだ。






ーー結局鍋一杯を完食させられその後アリサ以外は自室のトイレからなかなか出てこなかった。


汚物アレを美味そうに食べていたアリサは本当に人間ひとなのであろうか。


だがアリサの闇鍋のお陰で三つ分かった事がある。


まず、この世界では空腹を感じ、何かを口にすると空腹は満たされる。


二つ目はこの世界でも味覚を堪能する事ができる。


そして、最後は、二度とアリサに飯を作らせてはいけないという事だ。


危うく四人とも昇天するところだっ……


いや寧ろ昇天した方がまだ楽だったかもしれない。


酷い腹痛と嘔吐から解放され、トイレから床を這いながらベッドへ向かった。






ーーところで結局のところこの棺桶をどうしようか。


再び蓋を開ける。


寝ている。


相変わらずのデカい鼾だ。


どういう躾を受けて来たのだろうか。


……もはや蓋を開ける事に躊躇を忘れていた。



起こすべきなのか……?



いや、休日の社畜感を感じさせるこの爆睡面をみて起こす事に罪悪感が芽生えて来た。


明日でいいか……






ーー朝か。


ん、なんだかお腹に何か、重たい。


ボヤけた視界を目を凝らし見つめる。


そこにはいた。


棺桶で爆睡していたオッサンが。


顔近っ。


俺の腹の上でうつ伏せになるその子は涎を垂らし、深い眠りについていた。


こうして見ると可愛いのだがな……


「グワァーー」


これさえ無ければ完璧だったのに。


で、突然だったから反応出来なかったけど何で俺の上にいるの。


重たいし。


退かそうとした矢先、


コンコンッ!


「ヒナター、ご飯出来たけど、安心して今回は私が作ったから……」


疲労が溜まった社会人の声だ。


あんなタフなマナミでもアリサ鍋には耐えきれなかったのだろう。


……ん? てかこの状況見られたらヤバイんじゃ。


「まだ寝てるの? 入るよー」


ガチャッ


「えっちょっ待っ……」


慌てて止めようとするが時すでに遅し。


「…………」


「…………」


この沈黙が辛い。


すると、マナミの顔がゴミを見るかの様な表情に変わった。


「変態……」


マナミの視線が、俺の心臓をえぐるかのように痛い。


「あっ、あのコレは、ちがくて!」


音もなくスラっと姿を消した。


なんだろうこの気持ちは。


途轍もなく死にたくなった。


「おい、起きろよ」


取り敢えず起こす事にした。


「んん、朝かー? ふぉわぁー」


デカい欠伸かきやがって。


目を覚ました少女はとても綺麗な瞳をしていた。


これが男とかだったら間違いなく砲撃をお見舞いしていた。


金髪美少女おまけに貧乳。


体系はどちらかといえばスレンダー寄り。


色気はどこも滞っている。


そんな事より本題だ。


「お前は誰だ? なんでここにいる?」


俺の質問に一瞬首を傾げるが、思い出したかの様な表情を浮かべ、その表情は暗くなる。


「私は、アグネス。 奴隷よ」


「俺はヒナタだ」


奴隷?


このゲームには奴隷制度なんかなかった筈だが。


これもこの世界に閉じ込められてから追加されたシステムなのか?


「奴隷について詳しく聞かせてくれ」


アグネスはコクリと頷いた。


あまり聞くのは気がひけるがこれも今後の為になるかもしれない。


「私はこの世界の領主の奴隷。 毎日、毎日、蹴られ、殴られ、挙句の果てには屋敷から抜け出して、行き宛もなく道に捨てられていたこの棺桶で寝ていたのよ。 で、起きたら今に至るって訳」


アグネスの説明に疑問を抱いた。


「お前今、この世界の領主って言ってたけどお前もプレイヤーなのか?」


「ええ」


だとしたらNPCにこき使われていたのか?


「なぜログアウトしなかったんだ?」


「しなかったんじゃない、出来なかったのよ」


こいつは俺らがこの世界に閉じ込められる前からこの世界に閉じ込められていたのか?


つまりこの計画的犯行は最初ではなかったのか。


「いつから?」


初対面なのに何故か打ち解けてくれている。


元々フレンドリーな方なのだろう。


「ベーター版の時からずっとよ」


つまりアグネスは八ヶ月もの間この世界で暮らしていたというのか?


「でもなんで奴隷なんかに」


「……この世界にログインした時から私は奴隷だった。 見知らぬ男にこき使われ、何度殺意が芽生えた事か」


プレイヤーの意思などならまだあり得るが、それがコンピューターとは。


殺意が芽生えて当然だろう。


大変だったのだろう。


よく見ると首や足首などに鎖などで繋がれていた跡がある。


話の発端は掴めたのだが、何故入った棺桶が俺の部屋に。


これも犯人の狙いなのであろうか。


だとしたら何の為に。


とりあえずアイツらにも紹介してあげねぇとな。


でないと誤解も解けないままだし。






ーードアのノブをそっと引く。


隙間から中を覗き込む。


すると、アリサの姿が見えた。


隙間から覗き込む俺の視線にアリサが気付いた。


「あ、ロリコンリーダー!」


きっと、いや間違いなく俺の事だろう。


一刻も早く誤解をとかないと本当にロリコンリーダーになってしまう。


俺はドアを引き、アグネスの手を引き、部屋に入った。


そして、俺が聞いたこと全てを皆に説明した。


「ふーん、なるほどねぇ」


マナミが怪しげな表情を浮かばせる。


だがこれで誤解は解けたであろう。


一旦は安心だ。


「でもなんで一緒に寝てたの?」




……俺の安心を返せ。


まぁ大体は予想はしていた。


聞かれることくらい予想範囲内だ。


だから俺は予め考えておいた一言を告げた。


「寒そうだったから、布団に入れてあげたんだよ!」


ハロウィンが過ぎ、季節は段々冬に近づきつつある。


最適な回答はこれしか浮かび上がらなかった。


「それなら……仕方ないね」


アレ?


案外コイツチョロいぞ。


事情はアグネスに説明させ、俺は2日ぶりのまともな飯を頬張った。


ヤバい。


美味すぎるだろコレ。


食べれるものに巡り会えたことに感謝します。


神さまありがとう。


同時、 一滴の涙が零れた。

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