かみさまの■■
車窓を流れて行く景色の中、従姉である御神・蓮華の顔が見えた気がして、私は何気なく振り返る。
やっぱり蓮華だ、と思ったところで、運転席から声が来た。ルームミラー越しに、ちらりと見られたのが解る。
「どうかした?」
「……ん、新しいお店が出来てた気がして。気のせいだったみたい」
そう、と頷きが返ってきて、会話が終わり――私は、自然と嘘を吐いた自分に驚いていた。
お姉ちゃんには、隠し事はあっても、嘘は吐かないようにしていたのに。
でも――仕方がない。
一瞬だったけれど、だからこそ印象的に、蓮華の微笑みが記憶に残っている。
それはとても美しく、可愛らしい、親しい相手にしか見せない優しい微笑み。
一年前に失われて、もう二度と見られないと思っていた、蓮華本来の表情。
見逃してしまったけれど、きっとイツキ・ナオトさんと一緒にいたのだろう。
「……、……」
例外的な状況だから、お姉ちゃんは気付いていない。だったら、それでいい。
それがいい。
「――葵?」
「なんでもないよ、氷雨お姉ちゃん」
ルームミラーに微笑み返す。
私の大切な人達は、私に優しい。
でも私は、みんなに優しくない。
いつだって、自分のことだけ。
今だって、私は――
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――そして、運命の扉が開く。
嗚呼、私は――