第九十九話 思考
「それで私か?」
事情を説明すると、ヨウは苛立たしげに流をじっと睨んだ。
場所は流の家の中。
薫を客として招待し、家の中に入ってもらっている状態だ。
「ああ、頼むよ。……ヨウって結構長い間生きてるんだろ?だったら教え方もうまいはずだと思ったんだ。」
流は顔の前で手を合わせ、ヨウに頼み込む。
しばらく考えた後、ヨウは諦めたようにため息をつき、そして頷いた。
「分かったよ。私も協力しよう」
「マジか!?サンキュな」
「ああ。せっかくお前が頼ってきてくれたんだ。協力しないわけにはいかないだろう?」
ヨウは流に笑顔を向けてそう言った。
試験勉強は今日から開始。
試験間近になってくると、作戦の方が忙しくなってくる場合もあるため、流も試験勉強自分のを開始している。
「……………」
「XとYをこう置き換えてだな……」
「はい……」
ヨウはさすがに教え方が上手く、薫も熱心に聞いている。
一方で流はあまり集中ができていない。
窓の外を眺めたり、寝転がったりして先ほどからあまり進んでいない様子。
普段はもっと気楽にやる勉強法なのでこういう雰囲気には慣れていないのだ。
(よし、瞑想でもして集中力を養うか)
そう考え、流は目を瞑り、姿勢を正した。
「………………」
沈黙。
誰も一言も喋っていない。
薫が問題を解いているため、今はヨウも口を開いていない。
(瞑想、瞑想……………あれ?瞑想ってどうやるんだ?……いや、そもそも瞑想って何だ?何をすれば瞑想になる?)
段々と別の思考が働きだしてきた。
それに気づいた流は瞑想を止め、目を開いた。
(駄目だ。瞑想は役に立たない……)
心の中で理不尽な文句を言うと、流は疲れたように大きなため息を付いた。
ふと、勉強をしている薫の表情を見てみる。
その表情は真剣で明らかに必死で勉強している。
A組やB組にはたまに勉強が好きと言う変人もいるがC組であるならば、本来ならば勉強はしたくないと言う思考が普通だろう。
(菜月ちゃんが好きだからか……?)
そもそも誰か異性を恋愛対象として好きになったことがない流としてはその気持ちが分からない。
いや、正確には分かろうとしていないだけだ。
チラリとヨウの方を見てみる。
四月から流の家に居候している少女。
職業は悪魔で流にとって感謝すべき恩人。
特徴は金色の長い髪で顔もかなり可愛い。
(っと、いかんいかん……)
邪念を振り払うように頭を振る流。
「ん……!」
流は大きく伸びをしてから勢いよく立ち上がった。
「ヨウ、薫。ちょっと俺散歩してくるから……」
「ああ」
「はい」
二人は聞いているのかいないのか、適当に相づちを打って済ました。
それを聞いて、流は勉強の教材をバックの中に入れると玄関から外に出た。