第九十八話 作戦会議
「作戦……ですか」
「ああ」
薫が躊躇いがちに呟き流はそれに頷いて答える。
「良いんですかね。こういうの。なんか……恋愛に他の人の手を借りたりとかって気が引けますから」
頭を掻きながら薫が呟く。
「まあ……そうだな。………もしも俺が邪魔になったら言ってくれ。『もう十分だ。一人でいける』みたいな感じになれば助けなんて必要ないだろ?」
「………でも、良いんですか。こっちから誘っといてそんなの……」
「別に構わないさ。だから、遠慮なく言ってくれよ」
「はい……分かりました」
神妙に頷く薫。
「それじゃあ、改めて作戦会議だ」
言って流が身を乗り出す。
そして鞄の中からノートと筆箱を取り出した。
「それって授業用ノートじゃないんですか?」
表紙に数学と書いてあるノートを見て薫が思わず突っ込む。
「別に良いんだよ。ノートなんて後で見れればいいんだし」
そう言って流がノートを開き、中に何かを書き込む。
薫がのぞき込むとそこには『菜月ちゃん 攻略法!!』と濃い字で大きく掻かれていた。
おそらくその裏のページには数式がたくさん詰まっているはずだ。
「あの……川瀬先輩。お願いですからそのノートは他の人には見せないでくださいよ?」
「ん……分かってる」
流はさらに何かノートに書き込み続け、生返事を返す。
「先輩……聞いてます?」
「……………」
ついに返事までしなくなった流。
それから1分ほど経ってから流はようやく顔を上げた。
「やっぱり勉強会だな」
突然そんなことを言い出す。
薫は意味が分からず流の顔をじっと見つめている。
「勉強会だ、勉強会」
「勉強会………ですか?」
「ああ。俺の考えてる中で最善の策だ」
自信ありげに流が告げる。
「具体的には……?」
「具体的にもなにも、勉強会するだけだ」
「それだけ……ですか?」
薫が尋ねると、流はニヤリと不適な笑みを浮かべた。
「いや、そこで好感度をあげる。……ちなみにお前は何組だ?」
「え?……えっと、C組ですけど……」
「そして菜月ちゃんも同じクラス……と。ちょうど良いな」
一人でどんどん納得していく流。
薫は全くついていけてない。
「先輩……俺、よく分からないんですけど……」
「ああ、分かってる。今説明するよ」
言って、流はノートを見やすいように自分と薫の中間辺りに置いた。
「つまり、勉強会を開いて、そこでお前が問題をすらすら解いて菜月ちゃんの関心を引く。たぶんこれが重要なポイントだからな。………もちろん、その前に色々やるぞ。とりあえず接点を持たなきゃいけないからな」
「はい……」
「まあ、その話を置いといてとりあえず勉強会だ。お前とな菜月ちゃんはC組。つまり学力的には………まあ、あんまりこういうのは言いたくないけど、一般的ってわけだ」
「そうですね。だいたいC組が平均ですからね」
納得したように頷く薫。
「いいか?これからが重要だ。……勉強会でお前は問題をすらすら解けなければならない。つまり、その頃にはお前は試験の勉強を終わらせてなければならないんだ」
「はい……って、ええ!?」
薫が驚きの声を上げる。
「そ……その勉強会っていつなんですか?」
「おそらく、試験1週間前……いや2週間前だな。何回かやっておきたいし」
流のその言葉を聞いて薫が頭を抱える。
「安心しろ。まだそれまでには結構時間がある。それまでに何とかすれば良いだけの話しだ」
「でも、俺ってC組でもぎりぎり残ってるぐらいのレベルですよ?そんなの無理でしょう」
薫が落ち込んだ様子で訪ねると、流は首を横に振った。
「大丈夫。ちゃんと良い先生を付けてやる」
そう言って流は自信満々の様子で親指を立てた。