第九十六話 作戦
「え?何?お前は菜月ちゃんの事が好きなの?」
思わず聞き返してしまう流。
「あ……はい。だから、さっきはちょっとイライラしちまいまして……すみませんでした」
その体躯に似合わないはにかんだ表情で薫は頭を下げた。
どうやら薫は嫉妬深いらしい。
そのことを肝に銘じながら流は首を振った。
「いや、まあそれはしょうがないんじゃないか?ヤキモチを焼くなんて誰にでもあるわけだし。お前はそれがたまたま……まあ、過剰すぎただけなんだから」
「そう言ってもらえるとこっちとしても嬉しいんですけどね………」
「まあ、そのことはもういいや。………それよりも手伝いって何だ?俺も俺に出来る範囲なら手伝ってやるけど……?」
流が尋ねると薫の表情は少し暗くなった。
「実は俺、恋愛って全くしたことがなくて……」
「……いわゆる初恋って奴か?」
「はい……」
神妙に頷く薫。
流にとって薫のこの外面と内面のギャップには混乱してしまうため、薫のその表情を見て複雑な表情をする。
「でも、参ったな。……実際の所俺もそんなに恋愛ってものをしたことがないんだ」
流は頭を掻きながら呟く。
「何で俺なんかに助けを求めたんだ?もっとこういうことに詳しそうな奴っているだろ?」
「まあ……そうなんですけど……」
言いながら薫は後ろを見る。
そこには流にとって見慣れた顔、並川洋平がいた。
「俺が勧めといたぞ。ちなみにこいつとはサボり仲間だからな」
ニヤリと笑いながら洋平がそう告げる。
流はたまらず頭を抱えた。
「よりによってお前か……」
がっくりとうなだれる流を見て薫が気まずそうに頭を掻く。
「あの……なんか、俺悪い事しました?」
「いや、お前はとっても良いことをした。そう……それは少年、流を救う大きな鍵……」
芝居がかった口調で語る。
「変なこと言ってないで本当のことを言え。何企んでんだ?」
流が訊くと、洋平は流の元に歩み寄り、肩の手を回す。
そしてそのまま薫から少し離れたところまで流を連れていった。
「何だよ」
その体勢のまま流が洋平の不可解な行動に眉をひそめながら尋ねる。
ちらりと薫の方を見ると案の定頭に疑問符を浮かべていた。
「お前、確か湖上妹に懐かれてたよな?」
「…………まあ、そうだろうな」
自分で言うのは少し気が引けるため、少し躊躇いがちに流は頷いた。
「だったらこれは良い機会じゃないか?」
「……何がだよ?」
「何がってお前………薫は湖上妹のことが好きなんだぞ。そしてお前は今女を苦手としている。確かにそういう奴にとっては湖上妹は刺激が強すぎるからな。だからこれを利用して湖上妹をお前から標的を薫に変えてだな……」
「待て待て待て!お前今俺が女を苦手としているって言ったよな」
洋平の話を途中で切って流が反射的につっこむ。
その様子を見て洋平はニヤリと笑いながら流をみた。
「ばあか。今日一日見てりゃあ、んなことはすぐにわかる。まあ、俺だからだけどな」
「そ……そうか。まあ、なんだ。後で話そうと思ってたんだ。……すまん」
「ははっ。まあ、気にすんな。ちゃんと後で理由も聞かせろよ、親友」
『親友』という言葉を聞いて流は笑みを浮かべると
「ああ。わかったよ」
と呟いて洋平の肩を叩いた。
「そう言うわけで話を戻すぞ。……とりあえず、お前は奴の恋愛を手伝えば湖上妹が引き剥がせるってわけだ。どうだ?この完璧な作戦は」
「完璧って言うか……まあ、単純な作戦だな」
「そうかそうか。そこまで誉めるか」
はっはっはっ!と笑いながら洋平は流を解放した。
「……………で?どうする?」
しばらくしてから笑いをやめ、洋平は流に向き直り、尋ねた。
「まあ、折角お前が用意してくれたんだ。乗ってみるよ」
「そうかそうか。それは良かった。…………ふ。まんまと引っかかりやがった……」
「おいっ!」
「はははっ!冗談だ、冗談」
「本当に信用していいのかよ……」
「ああ。もちろんだ。………っと、まあそう言うわけでよろしく頼むわ」
「ああ」
流は頷きそのことを伝えるために薫の方へ歩いていった。