表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/105

第九十五話 期待

玄関の前まできてげた箱を開けると、中には一通の手紙が入っていた。

ひらひらと床に落ちる手紙。

流はそれを拾い、じっと見つめた。

「ん?なんだ、それは」

隣にいたヨウがのぞき込んでくる。

「手紙だ。げた箱に入ってた」

「…………おい、流。それはまさか……」

「いや、さすがにそれはないはずだ。ふつうに考えて有り得ない」

流は自分に言い聞かすように呟きながら中身を見るために封を開ける。

中には一枚の紙切れ。

そして紙面には女の子が書いたであろう、可愛らしいコロコロした文字が書かれていた。

『放課後、体育館裏で待っています。』

そう書いてあるだけで名前はない。

流とヨウの間で沈黙が起こる。

そしてしばらくその状態が続いた後で、ヨウが口を開いた。

「なあ、流。やはりこれは………」

「………ヨウ、先に帰っていてくれ」

ヨウの言葉を遮り、流がそう告げる。

その表情には緊張が走っていた。

「……分かった」

ヨウも流の気持ちを汲んでか、真剣な表情で頷く。


場所は体育館裏。

そこには特に何もないため、人が来ることは滅多にない。

しかし、そう言うところは逆に告白などのスポットになりやすい。

実際にここで告白をした者は無数にいる。

そんな場所に呼びだされた流だが、今はボーッと突っ立っているだけだ。

そして目の前には体の大きな男。

その男の名は流も知っている。

津村薫。

菜月から渡された紙に書いてあった男の名だ。

「こ……これを書いたのはお前か」

焦ってふるえる手で手紙を目の高さまで持ってくると、流は小さな声でそう言った。

「……はい。そうですけど……」

薫は流を見下ろしながら低い声で呟く。

返答を聞いて流は脱力したように大きなため息をついた。

「お前、驚かせんなよ……」

「?……何がですか?」

薫は意味が分からないといった風に眉をひそめた。

「いや、だからさ、まずあんな書体で手紙書かれたら誰だって女子からのラブレターと勘違いするだろ?」

「あ、それはよく言われますね」

巨大なその体躯に似合わない笑顔で薫が笑う。

「それから、お前が敬語なんておかしい。その体格だったら絶対にタメ口だろ」

「いや、それは先輩なんですからしっかりと割り切らないと駄目でしょう?」

「………まあ、確かにそうなんだけどな」

複雑な表情で流が頷く。

薫の外見と内面のギャップが激しすぎるせいか、流は先ほどからペースが崩されている。

「それにお前、なんか前にカツアゲっぽいことしてたろ」

流が勢いに任せてそう言うと、薫の表情は一変し、一気に暗くなった。

「やっぱり……そう見えちまいますか」

「え?」

「この体格なんで前からよく誤解されるんですけど、あれはカツアゲしてんじゃないんですよ。……あんまり自分からこういう風に言うのも気が引けるんですけど、あれはカツアゲされてたところを助けてただけなんですよ」

驚愕の事実に流は目を丸くする。

正直あの様子だけを見れば明らかにカツアゲしているようにしか見えない。

しかしよく考えてみれば、それは決めつけるのが早すぎたのかもしれない。

「それは悪かった……」

素直に頭を下げる流。

「いえ、良いんですよ。よくありますから」

薫は苦笑しながら首を横に振る。

「でも、そういえばさっき俺にぶつかってきただろ?」

「ああ、あれは……」

何か言いかけて薫が途中で言葉を切る。

そして突然真剣な表情になり、流のことをじっと見る。

「実はそのことで今日はこんな所に呼び出したんです」

「何だ?謝罪か?」

流が尋ねると薫は静かに首を振った。

「もちろんそれもあるんですけど、正確にはその原因にあるんです」

「原因……?」

「はい。……単刀直入に言いましょう。実は俺、湖上菜月さんのことが好きなんです。……そんで出来たらで良いんですけど、川瀬先輩にはその手伝いをお願いしたいんです」

薫は再び流に驚愕の事実を叩きつけた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ