第九十一話 誘い
授業終了のチャイムが鳴り響き、昼休みになる。
「よっ、川瀬っ!」
机に突っ伏している流にとナンパ仲間の白井晴樹が話しかけてきた。
「………………」
流は特に返事を返す様子も無く、そのままの状態でいる。
しかし晴樹はそんなことは気にも止めないのか話を続ける。
「今日、暇?暇だったら久々にナンパしにいかない?二人でさ、商店街の方に出てさ」
「……………」
流は無視し続けるがついに体がつつかれ始めたので面倒くさそうに体を起こした。
「悪いけど俺、今日はあんまり乗り気じゃないんだ」
「………へえ、珍しいね。川瀬が乗ってこないなんて。どうしたの?体でも壊した?」
「別に、何ともないけどな。とりあえずそういう気分じゃないんだ。悪いな……」
そう言って流は再び机に突っ伏す。
「………………恋?」
「違う」
晴樹が少し間をおいて尋ねると流は顔も上げずに即答した。
「なあんだ。つまんないなぁ」
残念そうに呟く晴樹。
「お前な………俺がそう言うのすると思うか?」
「いや、全然」
体を起こして流が尋ねると、今度は晴樹が即答した。
「………………」
「………………」
じっと睨み合う二人。
もっとも、晴樹は笑顔のままだが。
「まあ…………良いけどな」
そう言って机に突っ伏す流。
「ねぇ、川瀬……」
「って、お前俺を寝かせないつもりか!」
文句を言いながら流が顔を上げる。
「だってナンパに付き合ってくれないんだもん」
「……子供みたいなこと言うな。乗り気がしなきゃいかないのは当たり前だろ」
「ナンパ同盟の一員なんだから付き合ってくれよ〜」
そう言って晴樹が流に抱きついてくる。
「やめろ!暑苦しい。お前はホモか!」
「違うよ。女の子大好きのナンパ者だよ」
「いや、まあ、そりゃあ分かってるけどさ………」
「言っとくけど、僕はホモみたいな奴の気が知れないね。何で男なんかが好きなんだか………あ、でも同じ同性愛でもレズの方は良いね。ああ言うのをしてくれると僕としてもかなりうれしいね。よくそう言うのを全般的に否定してくる人がいるけど、それはおかしいよ。やっぱり否定するのはホモだけにしてほしいね。それにね……」
「おいおい。話が長すぎだ」
延々と続く晴樹の説教を流が口を挟んで打ち切らす。
「それにお前、それだけ説教しておいてこの行動は何だ?矛盾してないか?」
流が自分に抱きついている晴樹のことを指さしながらつっこむ。
「待って。流。それはおかしいよ。今の僕のこの行動は友人としての愛情表現であってそう言う変な感情を含む恋愛感情じゃないんだ。そもそもね、そう言う考えを持った人が多いから………」
「分かった分かった、悪かった。俺が悪かったからもう止めてくれ。そして頼むから放してくれ。この通りだ」
流が仕方なく頭を下げる。
「そこまでされちゃあ仕方ないね」
晴樹もそれを見て素直に離れた。
「でも、本当に大丈夫?体調が悪いんだったらゆっくり休んだ方が良いよ」
今度は晴樹は真剣な表情で訊いた。
おそらくいつもとは違う流を見て本当に心配してるのだろう。
「ん?いや、大丈夫だ。本当に乗り気がしないだけだからな」
「そっか。ま、お大事にね」
言って、晴樹は流の机を離れた。