第九話 疑い
目を開けると、まず視界に飛び込んできたのは見知らぬ部屋。
そしてその後に自分がソファに寝ていることに気付く。
「よう、起きたか?」
見知らぬ男に声を掛けられ少女は一瞬戸惑ったが、すぐに平静を取り戻した。
「ここは……?」
まだ起きたばかりだからか、声に張りが無い。
流はキャベツを刻んでいた手を止めると、少女の方へ向き直った。
「ここは俺の家。お前商店街で俺にぶつかってきたんだぞ?そんでその後、気を失って……って聞いてるか?」
話を途中で止め、ボーっとしている少女に呼びかける。
「ん?ああ、すまなかった。ちょっと色々とあってな……」
「……まあ、いいけどな。…で?なんであんな所で倒れたんだ?」
流がそう聞いた瞬間、
「グゥ〜……」
と、情けない音が少女の方から聞こえてきた。
「………」
頬を微妙に赤らめる少女。
それを見て流は大きくため息をついた。
「大体、事情は分かった。まあ、何だ……コロッケでも食うか?」
「……すまない。そうさせてくれ」
申し訳無さそうにそう言ってから、少女はすでに用意されている食卓に座った。
「ふう……」
少女が満足げに息をつく。
「どうだ?ここのコロッケ結構美味いだろ?」
「ああ、中々に美味かった。ご馳走様」
「いやいや、別にこれくらい当たり前だろ?それよりも風呂入ってこいよ。さっき沸かしといたから」
「そうか……何から何まですまないな」
そう言って立ち上がる少女。
風呂場まで案内するため、流も一緒に立ち上がる。
少女を風呂場まで案内した後、流は一旦自分の部屋に戻った。
そして5分ほど経った後、再び流は風呂場の前まで来ていた。
中からはシャワーの音が聞こえてくる。
思わず生唾を飲み込む流。
きっと体を洗っているに違いない。
そう思いながらも流は自分の服をすばやく脱ぎ、風呂場の扉を開けた。
「よう、俺も入るぞ!!……ってあれ?」
居ると思っていた少女はそこには居なく、中にはただシャワーが流れているだけだった。
「なるほど……疑ってみるものだな。あまりにも親切すぎると思ったんだ」
そして後ろからは先程まで聞いていた少女の声。
恐る恐る振り向くと、そこには服を着ていて腕を組んでいる少女の姿があった。
「………」
無言で服を着直す流。
そして服を着終わった後、その間無言だった少女が静かに口を開いた。
「恩があるからな。でこピンで勘弁してやる。構えろ」
「でこピンか……」
安堵の表情を浮かべ、流は少女の前に額を出す。
少女は中指を親指で抑え、指を弾く構えを取った。
所詮、女の子の力だ。
そんなに痛いはずもあるまい。
そう思った流は潔く目を瞑った。
そして少女がでこピンを放った瞬間………
流の意識が飛んだ。