表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/105

第八十八話 侵入

流は朝食を作るため、台所のあるリビングに入った。

「あ、流君。おはよう」

ブロンドの髪を後ろでまとめていて、美少女といっても全く違和感のない容姿の待ち主、草野由美が流ににっこりと笑いかけながら朝の挨拶をした。

「ああ、おはよう」

流も返事を返し、そのままソファに腰掛けた。

彼女は台所にいて、そこで何やら作業をしている。

「うわっ、冷蔵庫の中身がほぼ空っぽ……」

由美が冷蔵庫を開けて呟く。

「ああ、昨日はヨウが夕飯作ったからな」

「ヨウさんが……?」

意外そうな表情で由美が流を見る。

「ん?ああ」

「何か良いことでもあったの?」

「……いや、別にそうでもないけどな」

一瞬だけ間を空けて流が答える。

何か良いことがない限りはヨウが料理を作ることはない。

由美の中でもそういう位置づけになっているようだ。

「ふーん」

呟くと由美は作業を止め、流の方に歩み寄って隣のソファに腰掛けた。

「って、何でお前ここにいるんだよっ!」

「良いじゃんそんなの。気にしない、気にしない」

流が今気づいたようにつっこむと由美は笑顔のまま答えた。

「それ気にしないってどんだけ寛大なんだよ……。で、どうやって入ってきた?お前は」

「うん?玄関からだよ」

「玄関……?」

毎日家の鍵は閉めているはずである。

すると考えられる要因は………。

「由美、警察って何番だっけ?」

「うん?110番だよ。………って、待ってよーっ!」

流がソファから立ち上がって電話の方に歩き出すと、由美が慌てて流の元に駆け寄りそのまま流の飛びついた。

「どわっ!」

「わー!」

流は焦りの表情を浮かべながら、由美は笑顔のまま二人とも倒れ込んだ。

「って、今のわざとだろ!お前」

「あははははは!」

由美の下で仰向けになっている流が全力でつっこむが、由美はいつものように笑うだけだ。

「とりあえず、110番通報だな」

「ボクはふつうに玄関が開いてたから入ってきただけだよ〜」

「………まあ、そうだろうな」

納得したように流が頷く。

おそらく、昨日疲れすぎて鍵を閉め忘れただけだろう。

「それにしてもお前は………」

すぐに飛びついてくる由美に文句を言おうとするが、流は今の状況を見て口を閉ざした。

今の状況、流が仰向けになり、由美がその上にのしかかっている状態。

つまり、『浮いた心』を失っている流としてはあまり冷静でいられる状態ではない。

「ゆ……由美、ちょっとどいてくれないか……?」

「うん?」

流の胸に顔を押しつけていた由美が顔を上げて流の顔を見る。

それがちょうど上目遣いになってしまい、流は余計にドギマギしてしまう。

「いや、……その…こ、こういう状況はあまり……良くない。だから……そこをどこうな」

羞恥心からか、流はひどく空回りしている。

「流君……?どうしたの?なんだかいつもの流君らしくないよ?」

「お……お前の言いたいことはよく分かる。だけどな、とりあえず……そ、そこをどいてほしいんだ」

「……………」

「ど、どうした?早くどいてくれ」

「………ねえ、流君」

由美はいつもの陽気な様子ではなく、真剣な表情で流の顔を見た。

「昨日、何かあったの?」

「……………」

由美の問いかけに流の表情がひきつる。

「何か良いことがあったんだよね?それでそれは鍵をかけ忘れちゃうほど疲れることで、こんな怪我を負うことだったんだよね?」

言いながら、流の包帯が巻いてある方の腕をそっとなぞる。

「それで、流君の性格を変えちゃうようなこと………ねえ、何があったの?教えてよ……」

言って、由美は流の胸に顔を埋めた。

泣いているのか、微かに由美の肩がふるえている。

おそらく、由美には大方の予想がついてしまっているのだろう。

「…………分かったよ。昨日あったこと、全部話すよ」

諦めたようにため息をつくと、流はそう呟いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ