第八十七話 起床
ー朝。
今日は目覚ましがなる前に流は目を覚ました。
昨日、帰ってヨウの料理をたらふく食べた(もちろん余った)後、そのまま自分の寝室に入って寝てしまったのだ。
その時間、20時。
平日だというのに10時間以上寝てしまったのだ。
それも当たり前だ。
昨日は色々なことがあったのだから。
明が車にひかれ、時間跳躍してその明を助け、さらにヨウと込み入った話までした。
そんな状態で腹一杯ご飯を食べてしまったらそのまま寝てしまっても無理はない。
そしてこんな時間に起きてしまうという始末。
二度寝をしようにも全く眠くないのだ。
仕方なく流は掛布団を自分の上からどけてカーテンを開けた。
まぶしい朝日が射し込む。
流はベットから降り、制服に着替えると自分の部屋から出た。
流が今着ているのは夏服だ。
本来ならば夏服に着替えるのはもう少し先なのだが、冬服が破けてしまっているため、夏服に着替えたのだ。
(まあ、あの破け方じゃあ仕方ないよな……)
考えながら、流はヨウの部屋の前まで来た。
「ヨウ、入るぞ」
流がドアノブを回し、押すとガチャリと音を立ててドアが開いた。
中にはとても女の子の部屋とは思えないような殺風景が広がっている。
それも当然だ。
この部屋の中にいる少女は先日流と取引をした悪魔であるためだ。
悪魔には悪魔の、人間には人間の生き方があるのだろう。
部屋の隅にあるベットでこの部屋の持ち主、ヨウが寝息を立ててぐっすりと寝ていた。
流がその近くまで歩み寄る。
「……………これは、まだまだ寝れる表情だな」
ヨウの寝顔を見て、流が苦笑しながら独り言を呟く。
いつもの通り、ぎりぎりの時間にならないと起きないことだろう。
流はいたずらの一つでもしようかとヨウの方に手を伸ばすがそれも羞恥心により途中で止めた。
こんな些細なことさえもできなくなっている。
今、ヨウの部屋にいることでさえ、羞恥心によって辛くなってしまっているのだ。
こんな事ではナンパ者を演じ続けることなど到底できないだろう。
「…………くそ」
ヨウを起こさないように小さな声で呟くと、流はドアの方に歩いて部屋から出ていった。
ドアが閉まる音がするとヨウが静かに目を開ける。
「一人で抱え込みすぎだ……馬鹿」
呟いて、ヨウは布団を巻き込むようにして寝返りを打った。