第八十五話 真実
「しかしお前があの時の少年だったとはな。あの時の印象は今のお前の印象と全く違っていた」
ヨウは腕を組みながら言った。
「?……どういうことだ?」
「いや、どういうことも何もお前はナンパ者だろう?……いや、『だった』のか。とりあえず、昔のお前はもう少し素直な感じがしたんだがな」
それを聞いて流はああ、と納得したように呟いた。
「そっか。この際、そのことも一応話しておくか」
「何だ?何のことだ?」
ヨウが訊くと流はヨウの方に顔を向けた。
「ヨウ、お前は何で俺が『浮いた心』を失ったのか気にならないか?」
「え……いや、それは気にならないこともないが……」
実際相当気になっていたのだろう。
そう言ったヨウの視線はどこか泳いでいる。
「もう隠していても意味がないからな。話すよ」
言うと、流は一つ息をはいて話し始めた。
「俺は元々ナンパ者じゃないんだ」
「………は?」
いきなり予想外だったのか、ヨウが唖然とする。
「お前だってよく言ってたろ?『お前はナンパ者には見えない』って」
「ああ……そう言えばそうだったな」
思い出すようにしてヨウが呟く。
「本当のことを言うとあれは当たりだ。俺は本意でナンパしたことなんて一度もない。……いや、分かってる。お前が疑うのはよく分かる」
話の途中でヨウが疑いの目つきで流のことを見ているのに気づき、流が付け加える。
「だけどな、これは本当なんだ。……まあ、信じる信じないはお前の勝手だけどな」
「………一応信じておこう。でないと話が進まないからな。……でも、どうしてあんな真似ばかりしていたんだ?あんな事をしていたら、男はまだしも女からは軽蔑されるだけだろう?」
「それだよ」
「…………?」
流はご明答と言わんばかりの頷く。
対してヨウは意味が分かっていないようだ。
「まさに俺は軽蔑されることを望んでいたんだ。………いや、Mじゃない。そう言う意味で言っているんじゃないんだ」
軽蔑の視線を送るヨウに対し、流は再び言葉を付け加える。
そこで一つため息をつくと、流は再び説明をし始めた。
「例えば、お前はナンパな奴とつきあいたいと思うか?」
「それは………」
じっと流の顔を見るヨウ。
「…………いや、俺じゃなくてだな。一般的に考えてだ」
「あ、ああ。一般的にか………」
安心したように呟く。
「………お前、今の反応は………?」
ヨウの様子を見ながら流が尋ねる。
「ああ、いや。断ったらお前が可哀想だなって思ってな。どう言おうか迷っていたんだ」
「…………あっそ」
先ほどのヨウの反応はどう考えても妙な考えを抱かせてしまう反応だ。
(紛らわしい奴だな……)
心の中でため息をつく流。
「一般的にはそうだな……友人としては面白そうだからかまわないが、男女の関係となると抵抗があるな」
「だろ?それが俺のねらいだ」
「……?」
いまいちヨウには伝わらないのか、ヨウが頭に疑問符を浮かべる。
「………お前って意外と頭悪いな」
焦れったくなってきたのか流はヨウに聞こえないようにそう呟いてから、ヨウに顔を近づけた。
「いいか?簡単に言うと、俺は女とは友人関係だけで恋愛関係にはなりたくなかった。それだけだ。つまり、女を一定以上近づけさせないためにナンパ者を演じていたんだ」
流が驚愕の事実をヨウに突きつけた。