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第八十二話 心配

自転車の弁償代を払い、病院へ行ってようやくひと段落ついた流。

もちろん、自転車の弁償の方は流がひどい怪我をしていたため、お金だけ払う形になってしまったが、それでも相手は許してくれた。

病院で明と洋平とは別れ、ヨウと二人だけになった。

診察代を払い終えると、ヨウと流は病院から出た。

そして流は体に力を入れ、体を思い切り伸ばす。

「う………がああぁああぁぁ……」

「………何だ、それは?」

「伸びだ」

「変な生き物の断末魔にしか聞こえないぞ」

「じゃ、それでいい……」

疲れたようにそう言うと、流は辺りの風景を見渡した。

日は先ほどとほぼ変わらない位置にある。

後ろを見ると、先ほど出てきた病院が目に入った。

流の腕の傷はやはり見た目通りひどかったらしく、病院に入るとすぐに手当をしてくれた。

それだけ。

たったそれだけだ。

今日、重体でここに運ばれてくるはずだった明は先ほど流のことを心配しながら学校へ行った。

「本当に……」

「ん?」

「本当に……何も起こらなかったんだな」

流のその言葉を聞いてヨウは呆れたようにため息をつくと、流の怪我している方の腕を掴んで流の目線まであげた。

「いでで……」

「よく見ろ」

痛がる流を無視し、ヨウはその腕を流に突き出す。

「『何も起こらなかった』んじゃない。『何も起こさなかった』んだ。………お前が命を懸けてな」

それだけ言うとヨウは流の腕を解放した。

「聞いたところによるとお前、全速力で自転車で走って、そこから跳んで子供を助けたそうじゃないか」

「………!」

「安心しろ。河野の口から聞いたのはあくまで『流が転んで子供を巻き込んだ』と言うものだった。明は助けられたことに気づいていない」

「そうか……」

呟きながら、流は安堵の表情を浮かべた。

「どうもお前は人に見つからないように人助けがしたいみたいだな」

呆れたようにヨウが呟くと流は苦笑を漏らした。

そんな流の表情を見て、ヨウは何か気に食わなかったのか、流をにらみつける。

ヨウは流の近くまで歩み寄り、流の胸ぐらを掴んで自分の方に引き寄せた。

「どわっ!」

その不意打ちに流は抵抗できるはずもなく、されるがままに引っ張られる。

先ほどと同じような体勢だが、今度は相手がなにやら怒っている。

「流……」

ヨウが呟くようにして口を開く。

「お前は少し自分の命を軽視しすぎだ」

「え?」

「『取引』のことといい、さっき話したことといい、お前はどこか自分の命を軽く見ている節がある。それが私は気に食わない。何故そんなに自分を犠牲にする?何故そんなに私を困らせるようなことをするんだ、お前は……」

「……………」

呟いているヨウの声はかすかに震えている。

それは泣いているのか、怒っているのか、前髪で隠れて見えない。

「そっか……心配してくれてたんだな」

そう言って流はヨウの頭に手を置いて撫でた。

「か……家族だからな」

「そうか。ありがとな」

呟いてからも流は撫で続ける。

なでなでなでなでなでなで………。

「って、撫でるなぁーっ!」

ヨウは気がついたようにそう叫んで流の手を振り払った。

少しの間、心を落ち着けるように深呼吸をしてから、ヨウは口を開いた。

「全く…………まあいい。それよりも少し話したいことがあるんだ」

「話したいこと?」

「ああ。『取引』のことだ」

言われて流はああ、と思い出したように呟いた。

「それだったらゆっくりと話せる場所がいいな」

そう言って流が辺りを見回す。

すると近くにちょうど休憩用のベンチがあったので、二人はそこに移動し、腰掛けた。

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