第七十七話 決心
しばらく話した後、茜はその場で泣き崩れた。
どうやら悪い知らせだったようだ。
その様子を見てヨウと洋平が顔を下に向けるが、流は何か心の中で決めたように顔を上げた。
「洋平……少し、席を外してくれないか?」
「………何でだ?」
洋平の問いに流は答えず、黙って見つめるだけだ。
しばらくして、洋平は大きなため息をついて立ち上がった。
「ちょっとトイレ行ってくるな」
そう言って洋平は歩きだそうとして、足を止めた。
「流……」
顔も向けずに流に話しかける。
「何考えてるのかは知らねえけど、あんまり無理すんじゃねえぞ」
「いや、する」
それを聞いて洋平は呆れた表情でため息をつくとそのまま歩いて行ってしまった。
少し間をおいて、それを見送っていた流がヨウの方に顔を向ける。
「ヨウ、『取引』だ」
何の前置きも無しに流はヨウにそう告げた。
流の表情は真剣そのものだ。
「と……取引?」
ヨウが戸惑ったように訊き返すと流はすぐに頷いた。
「ああ。『取引』だ。悪魔とのな」
「……………」
黙ってヨウが流を見つめる。
同じように流もヨウを真っ直ぐに見ている。
「悪魔なんだろ、お前。短い間だったけどお前と今まで住んできて確信したよ。色々と理由はあるけど、何よりも七年前と変わらないその姿。……最初は別人かと思ったんだけどな。お前がうちに来る前日に丁度七年前の夢を見ちまってな。要するにお前は俺が丁度そのことを思い出しているときにうちに来たって事だな。そりゃあ、間違えようがないだろ?」
そう説明した流の表情には確信があった。
それを見てヨウはフッと小さく笑って口を開いた。
「ああ。そうだ。確かに私は悪魔だ。七年前に『取引』もしている」
一つ、小さく息を吐くと、ヨウは厳しい目で流を見つめた。
「さっきお前は『取引』をすると言ったが、本当に意味が分かって言っているのか?」
「ああ」
「自分のもっとも大切にしているものを失う代わりに本人の望みを叶える。つまりお前は下手すると命を落とすかもしれないんだぞ?」
「分かってる」
「それでも……良いのか?」
「ああ。何が起こっても今よりも悪いことは無いだろうしな」
その言葉を聞いた瞬間、ヨウは昔のことが思い出された。
『いいのか?』
『うん……恐いけど…何が起こってもお兄ちゃんがいなくなっちゃうよりは嫌じゃないと思うから』
七年前に『取引』をした少年と交わした会話。
その時との会話と今のものが妙に重なってしまい、思わずヨウの口から笑みが漏れてしまう。
「………何だよ」
「いや、七年前に似たような台詞を聞いていてな。それを少し思い出しただけだ」
気持ちを落ち着かせるように息をつくと、ヨウは再び真剣な表情に戻った。
「で、どんな願いを叶えたい?」
「『明を助ける』ってしたいとこだけどな………そうだな。過去に戻るっていうのは出来るか?」
「時間跳躍か?」
ヨウが尋ねると流は頷いた。
「それは出来ると思うけどな」
「そうか………」
ヨウの返答を聞いて流は顎に手を当てて何か考え出した。