第七十二話 雰囲気
ー朝。
流はいつもの行動を終えると朝食を作るため、一階に降りた。
リビングのドアを開けるとテーブルの上にはすでに朝食。
そして一枚の書き置きがあった。
『朝食を作っておいたよ。今度、また一ヶ月後に会おう。PS.ヨウにもよろしくね。 by透』
流はその書き置きをクシャリと丸めてゴミ箱に放り込むと、いつもの自分の席についてヨウを待つことにした。
それから5分ぐらいして、ヨウがようやく顔を出した。
やはりいつものように眠そうだ。
「おはよう。ヨウ」
「……ああ。おはよう…」
流が挨拶をすると今にも消えそうな声でヨウも返事を返した。
しかし少し間をおいてから突然、ヨウがハッと目を見開いた。
「うおっ、ど…どうした」
驚きつつも流が尋ねる。
「あ、いや…少し気になることがあってな……」
それだけ言うとヨウも自分の席に着いた。
「「いただきます」」
声を合わせて二人で言うと、二人とも黙々と朝食を食べだした。
「………透さんは?」
しばらくの沈黙が続いた後にヨウが気づいたように流に尋ねた。
流も箸を止めて顔を上げる。
「兄貴ならもう出たよ。また帰ってくるのは1ヶ月後だってさ」
「………そうか」
ヨウは相づちを打つと再び黙々と朝食を食べ始めた。
もともと朝は会話の少ない二人だが、今回の雰囲気は何かおかしい。
そう感じた流がヨウの方に目をやる。
と、ヨウも流の方を見ていたらしく、見事に二人とも視線がぶつかってしまった。
ヨウは慌てて視線を逸らしたが、流はそのままヨウの方を見ている。
だが、決して甘酸っぱい青春もののドラマなどで見るような雰囲気ではない。
「………なあ、ヨウ」
「何だ?」
視線をヨウに向けたまま流が呼びかけると、ヨウはろくに視線も合わせないで返事を返した。
「さっきからどうした?様子がおかしいぞ?」
「そ、そうか?」
戸惑いながら答えるヨウ。
その様子はどう見てもおかしい。
流は箸を置き、真剣な表情でヨウを見つめた。
「……ヨウ。何かあるなら言ってみろ」
「………あまり、お前にとって好ましくないことだが、良いのか?」
「少なくともこの状態を維持し続けるよりは良いからな。言ってくれ」
「…………分かった」
頷くとヨウは一つ、息をついた。