第七十話 忠告
「よう。調子はどうだ?林」
「……………調子って?」
無表情のまま流に尋ねる林。
「学校での生活。友達はできたか?」
「……そんなことあなたに報告する必要はない」
「要は出来てないんだな?」
呟きながら流は体を起こした。
「いい加減そのぶっきらぼうな態度止めないと、イジメに発展するぞ?」
「……もしそうなったとしてもあなたには関係ない」
プイッと林が流から顔を背けた。
その横顔を流がじっと見つめている。
「実はもうイジメの段階に入っているんじゃないのか?」
「そんなことはない」
「本当か?」
流が尋ねるとコクリと林が頷いた。
「そうか。良かった」
それだけ言うと流は川の方に目を向けた。
すでに辺りは茜色に染まっている。
「……………」
林が歩み寄り、流の隣に腰を下ろした。
「川瀬は………今日はどうしてここに?」
「お前に会うためだ」
「え………?」
戸惑いの表情を浮かべる林。
しかし流の一言でその表情も一瞬のうちに消し飛ぶ。
「おかげでお前の下着も見れたしな。今日はパンツデーだ」
バチーンと良い音が辺りに鳴り響いた。
流の頬に赤い手形が残る。
「それだよ」
頬を押さえながら流が呟く。
「え?」
「今の表情だよ」
「……何が?」
「今の表情をしていれば友達もできる」
流は自信ありげに林の顔を見る。
「確かに今のは怒った表情だったけどな。無表情よりは何倍もよかったぞ」
「……!」
言われて恥ずかしくなったのか、林は流から顔を背けた。
「そう言う表情もすると、更に良いかもな」
「………あなたは……何がしたいの?」
流の方に顔を向けずに林が尋ねる。
「そうだなぁ………お前に楽しい学校生活を送らせたい、とでも言っておくか」
少し考えた後に流は一つ頷いてそう言った。
「やっぱり、俺の彼女は笑ってないとな」
そして余計な一言を付け加える流。
「彼女じゃない」
「ふ……まあ、そう言うことにしておいてやろう」
不適に笑うと、流はズボンをはたきながら立ち上がった。
「じゃあ、俺はそろそろ帰るな。まだ商店街で買い物してかなきゃいけないし」
「ん……分かった」
林が頷いたのを確認すると、流は土手から降り、再び商店街への道へ戻っていった。
「ふう……」
川瀬家の門をくぐり、玄関の前にたつと、ヨウは大きなため息をついた。
先ほど渡された鍵をポケットから出し、鍵穴に差し込む。
ガチャリと音がするはずのドアノブからは何も音がしない。
「……?」
試しにドアノブを捻ってみるとドアが開いた。
「あいつ……鍵をかけ忘れたのか…」
呆れた表情で家の中に入る。
と、リビングには行った瞬間、異変に気づく。
と言うよりも気づかない方がおかしい。
リビングのソファにはスーツ姿の男が座っていたからだ。
その男もヨウに気づいたようで一瞬驚いた表情を見せる。
しかしすぐに表情を崩すとヨウの方に笑いかけた。
「流の、お友達かな?」
「あ…えっと……そうですけど……あなたは?」
「っと、そうだった」
言いつつ男が慌てて立ち上がる。
「僕の名前は川瀬透。流の兄です。よろしく」
その男川瀬透は笑顔のままそう告げた。