第六十五話 混乱
「明ーっ!!」
「うおっ!」
登校の途中、ヨウと由美の隣から流がいきなり走り出したと思ったら、一人で歩いていた明の腰に飛びついた。
明はもちろん前につんのめる。
「…………あいつ」
その光景を目にしたヨウは当然呆れた目で流を見ている。
「登校の途中でもこんな事をしているのか……」
チラリと由美の方にやると、由美は何やら納得した表情で頷いていた。
そしてニコッとヨウの方に笑顔を向けると流たちの方に走っていった。
「流くーん!ボクも混ぜてよ!!」
「どわっ!!」「ぐはっ!!」
由美が叫びながら突撃するとただでさえバランスが不安定だった明はついに耐えきれなくなり、その場で崩れ落ち、その上に流と由美がのしかかる形となった。
「待て待て!!流、重い!そして草野もどけ!潰れる!」
「あ、ひっどーい!明ちゃんボクのこと重いって言ったぁ!」
「いや、分かった!重くないからどいてくれ!軽い、軽くて死にそうだからそこをどいてくれ」
「明ちゃん、文法おかしいよ」
「あー、もう、良いからどけよ!!そして流もどさくさに紛れてヘンなところ触ってるんじゃない!!」
「いや、不可抗力だろっ!!………と言うことにしておこう」
「やっぱりわざとだろ!って言うか確信犯だよな!」
「ボク、流君にならどこ触られても良いよ!!」
「ああ、もう!!ほんっとにお前等、いい加減にしろーっ!!」
明が叫ぶものの、二人がどく気配は全くない。
そんな様子をヨウはずっと眺めている。
呆れた様子で。
しかし、どこか楽しそうに。
「おーおー、やってるねぇ」
不意に、後ろから声が聞こえた。
「ああ。朝から騒がしい限りだ」
ヨウは振り返りもせずに頷いた。
後ろにいるのは並川洋平。
声だけでヨウには認識できていた。
ヨウと洋平は今までそれほど接触していたわけではない。
なのに何故声だけで認識できたか。
それは出会いが印象的だったから、と言うのももちろん少しは影響しているのだろう。
だが、それだけではない。
と言うよりも先日、ヨウは転校してきたばかりなのに洋平の提案により、クラスの大勢に囲まれながら昼食をとる羽目になってしまったのだ。
人見知りの激しいヨウにとってはそれはかなりきつい状況だった。
流がからまれている際に助けに行こうとしたのを止められたことからもヨウは洋平にあまり良い印象は抱いていない。
「おい」
振り返りながらヨウが呼びかける。
その声には愛想がない。
「あ?」
洋平が流たちの方からヨウの方に視線を移す。
身長差から洋平が見下ろす形となる。
「流のことで少し訊いておきたい」
ヨウは真剣な表情で洋平に告げた。