第六十三話 真相
昼休み。
生徒たちは昼食を食べながら、友人と話したりしている。
ヨウも例外ではなく、早速友人を作り、というよりも無理矢理食堂へ連れて行かれた。
しかしそんな中、流は屋上にいた。
もちろん、ここは立ち入り禁止になっている。
普段は規則を破らない流がこんなところにいる理由。
それは……
「あっ、流君だ!」
そう言って流の方へ走ってくる由美、彼女が原因だ。
由美は少し手前で踏み切り、流に飛びついた。
「どわっ!」
もちろん支えきれるはずもなく、流は後ろに倒れてしまう。
「ねえねえ、いきなりこんなところに呼び出してどうしたの?もしかしてボク、襲われちゃうの?」
「何で襲われそうだと感じていてうれしそうなんだよ、お前は」
あきれた表情で突っ込みながら由美をどかして流が立ち上がる。
由美もそれに合わせて立ち上がった。
「だって相手が流君だもん。それはボクにとって最高だよ」
「…………ところで、お前昼飯はどうした?」
無理矢理、話題転換をする流。
「まだだよ。流君と一緒に食べるつもりだったから。やっぱり好きな人と一緒に食べるご飯は格別だもんね」
「…………」
無言。
しばらくして何か諦めた風に流は大きなため息をついた。
「………お前、そんな性格だったか?」
「……?」
可愛らしく首を傾げる由美。
「いや、確かに元は変わってない。それは分かるんだが………その、俺のことを好きだとか言うの、前はそんなこと言ってなかっただろ?」
「うん。そうかもしれないね。でも、自分の気持ちに嘘をついているつもりはないよ」
「…………」
真剣な、というよりもどこか困ったような表情で流が由美を見つめている。
「もちろん、今も昔もね」
「…………」
満面の笑みを浮かべる由美から思わず視線を逸らしてしまう流。
「それよりも流君」
笑みを無くし、真剣な表情をして由美が流に一歩近寄る。
その空気を読みとって流も真剣な表情になる。
「流君って、本当にナンパ者なの?」
一瞬、異様な空気が流れた。
由美の声がそれほど大きくもないはずなのに、拡声器を使ったように屋上に響きわたった。
「…………」
流は表情には出さないものの、その問いには答えられずにいた。
やがて由美は流から視線をはずし、くるっと一回転して後ろを向いた。
「やっぱり………」
呟いた声に先ほどの明るさはない。
しかし、どこか安心したような声だ。
「でも良かった。流君が変わってなくて」
そして振り返った顔には再び満面の笑み。
その顔を見て流は小さくため息をついた。
「由美……」
「大丈夫。誰にも言わないよ、このことは。それにちゃんと理由も予測がついちゃってるしね」
「…………そうか」
最早、何も言う必要がないと感じたのか、流は安心したように頷いた。
「……それじゃあ、ボクお昼ご飯食べてくるね!」
そう言うと由美は流の横を通り過ぎ、ドアにかけだした。
「あっ、由美!」
「ん?」
流の呼びかけに由美が振り向く。
「あ…えっと……その、昼飯…一緒に食わないのか?」
無意識に声を出していたのか、呼びかけた後でしばらく考えてから流はそのお言葉を口にした。
由美は一瞬驚きの表情を浮かべたものの、すぐに流の意図を察したのか、再びその顔に笑顔を浮かべた。
「あは。やっぱり流君は優しいね。さっき言った言葉本気にしてたんだ?……大丈夫だよ。もうちゃんと友達作ってるから」
そう言うと由美はドアを開けて校舎の中に入っていった。
「ふう……」
無意識のうちにため息をついてしまう流。
気が抜けたせいか、流は金網に寄りかかり、何も考えずに空を仰ぎ見た。
思えば、ここ最近ずっと忙しかった気がする。
もちろん流にとってそれは決して嫌なものではなく、むしろ心地良ささえ感じている。
「1ヶ月………か」
新学期が始まってからもう一ヶ月が過ぎようとしている。
(1年、あっと言う間なんだろうな……)
そう思いながら再び大きなため息をつくと、流は気持ちよさそうに目を閉じた。