第六十二話 動揺 2
由美から爆弾発言を聞いたB組。
その結果はもちろん……
「な……なにいいいぃぃぃ!」
「嘘だろ!おいっ!」
「信じられん。あの川瀬が……」
「あんな可愛い娘が川瀬の彼女って……!」
「おい、流っ!」
パニック状態に陥ったクラスを代表して明が流の胸ぐらを掴む。
「どういう事だ!これは」
「どういう事って………」
困ったように流が辺りを見回す。
「本当につきあってるのか、お前と草野は!?」
言いながら明は流を自分の方に引き寄せた。
「いや、付き合ってないって………」
『は………?』
クラス全体が固まる。
「だから、付き合ってない。俺とこいつは」
「…………」
クラス全員、由美の方に顔を向ける。
「あは。ごめんなさい。ボクもこんな騒ぎになるとは思わなかったの……」
可愛く舌をチロリと出してみんなに向けて頭を下げた。
その瞬間、クラス全体の空気が一気に緩んだ。
「でも、ボクの気持ちは本物だよ」
『………っ!!』
そして再び爆弾発言。
「草野……それってまさか………」
躊躇いがちに明が尋ねる。
みんながそれに呼応して息を呑んだ。
「うん。ボクは流君のこと大好きだよ。もちろん友達としても好きだけど、それ以上にも」
由美はそう言って再び流に抱きついた。
それはもはや告白とも受け取れる言葉。
『…………』
長い沈黙。
当人達にはそれは1時間にでも感じられたのではないだろうか。
そしてしばらくしてから再びクラスの中でパニックが起こった。
「………ったはぁ」
B組から戻ってきた流は自分の席に座り、椅子の背もたれに全体中を預けた。
先ほどまでいた隣の席に座っているヨウの周りの者達は飽きもせずにそこにいる。
しかしヨウへの質問も一度、中断される。
間もなく授業開始のチャイムが鳴り響いた。
みんな渋々自分の席に帰っていく。
「ふう……」
隣から大きなため息が聞こえてきた。
もちろんそのため息をついたのはヨウだ。
「おい、流」
「何だ?」
二人ともお互い顔も向けずに話す。
「学校って疲れるんだな」
「ああ………そうだな」
二人が特に意味もない会話をしているうちに担当の教師が教室に入ってきた。
「でも」
ようやくヨウが流の方に顔を向ける。
そして
「楽しい。入ってよかった。ありがとう」
言って、ヨウは笑顔を作った。
「そうか。それはなによりだ」
それだけ言うと流はこれから授業が始まるというのに机に突っ伏した。
そして夢うつつの中で先ほど由美とみんなに聞こえないようにした会話を思い出す。
『後で屋上に来てくれ。かなり話したいことがある』
『うん。ボクもたっくさんあるんだ、話したいこと。絶対に行くよ』
後で屋上に行って由美と話をしなければならない。
それはおそらく今後において必要なことだ。
しかしやはりそれは面倒に感じるのか、流は疲れたように大きなため息を一つつくと、あっと言う間に眠りに落ちていった。