第六十話 再会
A組同様、B組でも騒ぎが起こっていた。
理由は同じ。
美少女が自分達のクラスに転入してきたからだ。
早速、由美の周りには人だかりが出来ていた。
「はぁ。よくあいつらも飽きないな……」
その人だかりを少し離れたところで見ながら疲れたように明が呟いた。
「あはは。私の時もあんな感じだったもんね」
沙織が苦笑しながら明の呟きに答える。
確かに転校生というとなかなかに興味をそそられる。
しかしそれをみんなで押し掛けて果たしていい気持ちになろうか。
沙織も同じような立場にあったため分かるが、この行動は以外とその中心にいる人物を困らせてしまうのだ。
人だかりの隙間から転校生の顔が見える。
しかしその表情は困ったような笑顔ではなく、その状況を楽しんでいるかのように思えた。
草野由美。
転校生の彼女は自己紹介からして元気な少女であることが一目瞭然だった。
(結局、人によるのかな?)
そんな彼女の表情を見ていると沙織の中でそんな感情が生まれてきた。
「っと、忘れるところだった」
呟くと、明は椅子から立ち上がり、由美の方に歩きだした。
「?…どうしたの?」
沙織が明の行動に疑問を持って尋ねる。
先ほどあまり良く言っていなかった人々の中に自分から混ざろうとしているのだから疑問に持つのは当たり前だろう。
「いや、ちょっと忠告をな」
それだけ言うと明はその人だかりの中に潜り込んだ。
「ちょっといいか?」
「うん?」
明が声をかけると由美が笑顔のまま振り向いた。
「どうしたの?今度は何が訊きたい?」
「いや、訊きたいとかじゃなくてちょっと忠告をしに来たんだ」
「忠告?」
由美が首を傾げる。
「ああ。この学校のナンパ者についてだ」
明が言うと周りの者も、そうだったと思い出したように頷いている。
「ナンパ者って?あのナンパ者?女の子にすぐ声をかけちゃう?」
「そうだ。そのナンパ者なんだが……っと、説明する手間が省けた」
ドアの開く音がし、みんなが一斉にそちらに注目する。
そこに立っているのはもちろん今話しに出ていた川瀬流。
「流君……?」
一瞬由美がそう呟いたものの、それは誰の耳にも入らなかった。
「と、言うわけであれがナンパ者の………あれ?」
明が由美の方に顔を向けて説明しようとするが、振り返った視線のその先にはすでに由美の姿はなかった。
「あれ?何でみんなこっち向いてるんだ……?」
みんなの注目を浴びている流が戸惑いながらみんなに尋ねる。
「きっとみんな『またか……』って思ってるんだよ」
近くにいた沙織が流に説明をする。
みんなはそれに反応して頷いた。
「成る程。それなら話が早いな。……転校生は?」
納得したように頷くと流が沙織に尋ねる。
「あそこの輪の中にいるよ」
「そうか。サンキュ」
それだけ言って流が歩み寄ろうとした瞬間、何かが机の間から飛び出し、流に突撃した。
「どわっ!」
不意打ちを食らったため、流はたまらず横に倒れてしまう。
みんな、唖然としている。
何故か?
それは流に乗っているのが先ほどみんなの中心にいた転校生だったからだ。
「流君っ!久しぶりっ!」
流の上に跨りながら、由美は笑顔でそう告げた。