第五十九話 質問
「え〜。じゃあ、早速だがみんなに新しいクラスメイトを紹介する」
教壇に立つなり、担任の教師は面倒くさそうにそう告げた。
確かにこれからうるさくなることは必至なのだから、教師にとって面倒くさいのは当たり前だろう。
しかしみんなはそんなことは気にせずに期待の目を教室の入り口のドアの方に向けている。
ガラガラガラ……。
遠慮がちにドアが開く。
そしてそこから長い金髪を揺らしながら制服姿のヨウが教室に入ってきた。
一瞬みんなの息が詰まる。
そして……
『おおおおおおおおお!!』
男子は歓声を上げ、女子は騒がないにしろヨウの容姿を見て楽しそうにこそこそと話している。
そこからは悪意など微塵も感じ取れなかった。
そんな様子を見てヨウは戸惑いながらもみんなの目の前に立ち、黒板に『水名陽』とチョークで書いてからみんなの方に顔を向けた。
「あ…ええと、水名陽です。よろしくお願いします」
ぺこりと礼儀正しくお辞儀をする。
みんなはすでに騒ぐのを止めており、今度は拍手でヨウの歓迎を示した。
「ねえねえ、何で転校してきたの?」
「あ……えっと、家の都合で」
「趣味とかは?」
「趣味は……特にないな」
「何で金髪なんだ?」
「ん……これは元々だ」
「ハーフなのか?」
「いや、日本人だ」
休み時間。
様々な質問がヨウに投げかけられている。
もちろん受け答えをしているのはヨウだ。
ヨウの席は責任上、流の隣となり、その周りには人だかりができていた。
流は周りの者達がうっとうしくなったのか、晴樹の席に着いており、そちらに目を向けながら小さなため息を漏らした。
「どうした?ヤキモチでも焼いてるのか?」
後ろから聞こえる明らかにふざけている声。
「いや、安心したんだ」
そちらに顔を向けずに流が答える。
すると声の主、並川洋平が流の前に回り込んできた。
「その『安心した』ってのは純粋に同居人としてか?それとも何か他の理由か?」
「他の理由って何だよ……別に普通に同居人としてだ」
「なんだ、そうなのか。俺はてっきり……」
「さてと……」
洋平の言葉を遮ってそう呟くと、流は椅子から立ち上がった。
「ん?…どうした?」
「ちょっと隣のクラス行ってくる」
「ああ、もう一人の方か。別に後ででもいいんじゃねぇか?陽……だっけ?知り合いがいないと彼女も不安だろ?」
「確かにそれも一理ある。だけどな、これから起こることを想定すると、俺はいない方がいいみたいだからな」
流は拳で洋平の胸を軽く叩くとそのまま教室の扉に向かって歩きだした。
「ヨウのことはお前に任せるよ」
顔も向けずに手だけ振って洋平にそう言った。
少し離れたところからヨウ達の会話が聞こえてくる。
「じゃあじゃあ、水名さんってどこに住んでるの?」
おそらくこの声はナンパ者の白井晴樹だろう。
これが、流にとって一番やっかいな質問である。
決して隠すつもりもないのだが、それでもある答えをヨウに言われるとかなりやっかいなことになる。
そしてこの扉まで来たのはそれを理解した上での行動なのだ。
「流の家だ」
ヨウがそう言った瞬間、流は教室から出て扉を閉めた。