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第五十七話 登校

ガチャリ……。

おずおずとリビングの扉を開けるヨウ。

中にはいると朝食を作っていた流が振り返った。

「………っ!」

途端、驚きの表情を浮かべそのまま固まってしまった。

「や…やはり違和感あるだろう?私がこれを着ると……」

そう言ってヨウが自分の体を見下ろす。

今、ヨウが着ているのは流たちが通っている高校、蔵町高校の制服だ。

「いや、よく似合ってる。今すぐにでも押し倒したい気分だ」

笑顔でそんなことを言い出す流。

それを聞いて反射的にヨウは防御態勢をとった。

「おいおい、今のは冗談として流してくれよ……」

そんなヨウの様子を見て流が落ち込んだようにため息をつく。

「あ……いや、これはお前の普段の行いが悪いから……」

気まずそうにそう言いながらヨウが防御態勢を解く。

すると、それを狙っていたのか、流は一気に体勢を低くするとヨウの目の前まで走り抜けた。

「とりゃあっ!」

そしてスカートの裾に手を引っかけそのまま腕を振りあげる。

いわゆるスカートめくりである。

「…………っ〜〜〜!」

一瞬、理解ができなかったのか唖然としていたヨウが慌ててスカートを押さえた。

「ふっはははははっ!油断したな、ヨウ!あの程度で俺が傷ついたとでも思ったか!」

腰に手を当て、不適な笑い方をしながらそう言う流。

しかし、次の瞬間には流の体は床に倒れ伏していた。

「いでででででっ!!」

そしてその腕を捻りあげられ流は苦痛の声を上げた。

「何で、お前は、そう言う行動が、我慢できないんだ!」

言葉の句の度にヨウが捻りあげる力を強めていく。

「あぎゃーーー!」

流がついに断末魔のような声を上げ始めた。

今日はGW明け最初の学校。

つまり、今日がヨウの初めての登校日なのだ。



「じゃ、また後でな」

学校の昇降口でヨウと流が別れる。

職員室までの道は分かると言って流に見送りはここまでにしてもらったのだ。

ここから職員室までの道。

それは依然ヨウが学校内で迷ったことのある道だ。

そのときはたまたま通りかかった沙織によって助けられ、そこまでの道を案内してもらったのだ。

(一度言ったことのある道なのだから覚えているはずだ)

そう思ったヨウの失態。

それは今に至る。

今、ヨウは学校という名の迷路の中にいる。

つまり、また迷ったのだ。

「広すぎる………」

周りを見て呟くヨウ。

ヨウの目には先ほど目にしていた光景、昇降口が広がっている。

動かなかったわけではない。

20分ほど放浪した結果がこれなのだ。

流と早めに来たのが不幸中の幸いだ。

周りに誰もいないわけではないのだから誰かに訊けばいいのだが、人見知りの激しいヨウにとっては過酷な試練だ。

しかしそろそろそんなことを言っている場合ではない。

そう思ったヨウは近くにいる生徒に声をかけようとした。

「水名……ヨウさん?」

その直前、後ろからそんな声がした。

後ろを向くと、そこには試験を受けたときに一緒にいた少女が立っていた。

「あ……ああ。よく名前覚えていたな」

「うん。おもしろい名前だったからね」

ブロンドの髪を揺らしながら笑顔でうなずく少女。

「そう言えばまだ名前訊いていなかったな」

気づいたようにヨウが呟く。

すると少女は忘れた、と言わんばかりに手を打って一歩下がった。

「そう言えばそうだね。こほん。ええと……ボクの名前は草野由美くさのゆみよろしくね。ヨウさん」

そう言って由美が手を差し伸べてくる。

「ああ。お互い受かって良かったな」

その手を取ってヨウも笑顔になる。

「それにしても何でさっきからキョロキョロしてたの?なんだか見てて挙動不審だったよ?」

「ああ。それは……」

そう言ってヨウが一通り話し終えると由美は大笑いしだした。

「あっははははははっ!ヨウさんって方向音痴なんだぁ?」

楽しそうに声を上げて笑う由美。

「あまり笑うな。仕方ないだろう。元々なんだから」

「ごめんごめん。って、こんな事してる場合じゃなかったね。ボクも遅刻寸前だったんだ」

「………何?」

思わず動きを止めてしまうヨウ。

遅刻寸前なのにこんなところで話している暇などあるはずがない。

つまり今相当まずい時間のはずだ。

「はあ………」

「どうしたの?」

まだ気づいていないのか、由美がヨウの顔をのぞき込む。

「職員室までの道、分かるか?」

「え?うん。分かるよ」

「よし。じゃあ、急ごう。間に合うかどうかは分からないが……」

「えっ!?もうそんな時間!?」

慌てて由美が時計を確認する。

「わっ、急がないと!」

そう言って由美はわたわたと走り始めた。

「ふう……」

一つため息をつくと、ヨウもその後を追った。

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