第五十五話 感謝
「本当にそんなに安いので良かったのか?」
夕日の中、公園のベンチに腰掛けながら流が明に尋ねる。
その後に明も隣に腰掛けた。
「いや、安いも何もリボンに高いものとかあるのか?」
「さあ?それは知らんけど……それ百円だぞ」
明が手に持っている紙袋を指さしながら流が告げた。
「まあ、よく分からないが……贈り物ってのはお金じゃないだろ?」
「…………」
明の言葉を聞いて流が唖然と明の顔を見ている。
「…なんだよ」
「………いや、結構いい事言うよな」
「別に、テレビとかで言ってたことを使ってみただけだ」
少々照れくさかったのか、明はそう言って流から顔を背けた。
「へえ」
「それに………」
付け加えるように声をだす明。
「学校には着けて行かないしな」
「えっ!?何でだよ」
「いや、付けても付けなくてもどっちでも良いって言ったのはお前じゃないか」
「それはそうだけどさ、こういう場合、買ってくれた奴にサービスとして付けて行かないか?」
「普通はそうするだろうけど、お前下心丸見えじゃないか」
あきれた表情で呟く明。
「当たり前だろ。男はみんな獣さ」
流は格好付けるように前髪を掻き上げてからそう言った。
「………まあ、それは置いといてだな」
「スルーかよ…」
流の言葉を無視し、明が流の方に体を向ける。
そして明はリボンの入った紙袋を胸に抱き、
「何にしてもありがとな、流。大事にする」
と、礼を言った。
言った少し後に明の顔が徐々に紅潮していく。
「い…一応プレゼントもらったからな。礼を言わないと割に合わないだろ」
後から言い訳のようなものを付け加える明。
そんな明をただ呆然と眺めていた流は我に返ったのか、ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべると明の体を一気に抱き寄せた。
「うわっ!」
不意打ちだったためか、明は抵抗無く流の胸の中へと飛び込んでしまった。
「よしよし。どういたしまして」
その体勢のまま流が頭を撫でる。
少しの間流の腕の中でおとなしくしていた明だが、すぐに気がついたように流のわき腹に肘を入れて離れた。
「だから、そのすぐに抱きつく癖を止めろ!」
「抱きついてない。抱きしめたんだ」
「……っ!どっちでも同じだ!」
そう言うと明が怒ったようにそっぽを向いてしまう。
流は小さなため息をつくとベンチからゆっくりと立ち上がった。
「どうした?もう行くのか?」
そう言って明が立ち上がろうとするのを流が手で制した。
「大丈夫。ジュース買いに行くだけだ」
「あっ、それだったら私も……」
「座ってろって。俺が買ってきてやる」
「いや、それは悪いだろ」
「悪くないって。デートってのはそう言うもんなんだ」
意地でも立ち上がろうとする明の肩を流が押さえつける。
「ふう……分かったよ。待ってればいいんだろ」
しばらくの問答の末、ようやく明がおれた。
「そうそう。そうやって彼女ってのは……」
「彼女じゃない」
「………女の子ってのは待っているものなんだ。……で、ジュースは炭酸系でいいのか?」
「ああ。それでいい」
明が了承すると、流は一度頷いて自動販売機の方に歩いていった。