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第五十三話 昼食

映画館の隣のファミレス。

明と流はそこで昼食をとっていた。

ただいま明号泣中。

「なあ、もう泣くなって」

流がなだめるように明の背中をさすりながら明に話しかける。

「うっ、別に……ひっく、泣いてなんかない」

「いや、泣いてるだろ。そこ否定するのはおかしいって」

「泣いて……ひっく、ない!」

「分かった、分かった。とりあえず涙拭いとけ。顔がぐちゃぐちゃになってるぞ」

そう言って流がハンカチをポケットから取りだし、明に渡す。

明はそれで涙を拭き、すぐに流に返した。

しばらくして、

「いや、まあ……その…悪かったな。お前がああいうのが苦手だなんて知らなかったもんだからさ…」

流は気まずそうに頭を掻きながら呟く。

「ん……別にいい。ずず……私もああいうのが嫌な訳じゃないからな」

だいぶ落ち着いてきたのか、そう言って明が顔を上げた。

先程よりマシになっているものの、やはりまだ目が赤い。

「でも、こんなに泣くとはな……」

映画館の中にいたときのことを思い出しているのか、苦笑しながら話す流。

「もういいだろ。そのことは」

「いや、でもここまで泣く奴は始めてみたぞ」

「そんなに感心した顔をされても嬉しくないな」

怒ったように明が流から顔を背ける。

「まあまあ……おっ」

流は苦笑しながら明をなだめていると、途中で先程頼んであったメニューが到着した。

明の目の前に置かれたのはフルーツのたくさん乗っているパフェ。

「うわ……」

流が思わず目を丸くする。

そのパフェの量は相当の物だろう。

「何だよ……私がこれを食べちゃ駄目なのか?」

口を尖らせながら流の反応に文句を言う明。

「いや、別に男っぽい口調の明がこんな女の子が食べるような物を頼んじゃいけないとかそう言うこと言っているんじゃなくてだな…」

「もう言ってるだろ、それ」

「まあ、今のは冗談としてだな。……これ、食えるのか?」

流は明の目の前に置かれている巨大なパフェを指で指して尋ねる。

「?…ああ、そう言うことか。だったら大丈夫だろ。これ位ならいつも食べてるからな」

「いつも……」

思わず息をのむ流。

そんなことはお構いなしに明が早速パフェに取りかかる。

「でもさ…」

「ん?…どうした」

「デートの時ってもう少し食う量控えないか?」

「何でだ?」

不思議そうに聞き返す明。

それを見て流は大きなため息を一つつくと説明を始めた。

「いいか?デートっていう物はだな、相手に自分を良く思わせる行事みたいなものだ。それをお前は…そんなでかい物食いやがって」

「べ…別にいいだろ!何食べようが私の勝手だ!」

「そんなもの食ってたら太るぞ」

「……現に太ってないから大丈夫だ」

確かに明の体は太っていない……と言うよりも痩せている方だ。

「でも、またその油断が……っと、俺のも来たな」

流の頼んだ物を持った若い女のウェイトレスが来たのを見て流が話を打ち切る。

「お待たせしました。こちら、たらこスパゲティになります」

そう言って皿をテーブルにおくと、そのウェイトレスは背を向けてはすぐに背を向けて去ろうとする。

しかしその手を流が掴み、それを阻止した。

「え?」

突然の出来事にウェイトレスが目を丸くする。

「ねぇ、いつからここでバイトしてるの?」

笑顔で話しかける流。

「え…えっと、先月からになりますけど…」

困惑しながら答えるウェイトレス。

「今度よかったら一緒に食事でもしない?」

「え…でも……」

困ったようにウェイトレスが明を見つめる。

おそらく明のことを彼女だとでも思っているのだろう。

それを見て明は大きなため息をもらすと置いてあったフォークを手に取り、それを流の手に刺した。

ブスッ。

「あ……」

その光景に再びウェイトレスが目を丸くする。

「ああああああああああ!!」

それをほぼ同時に流の絶叫が店内に響きわたった。

「だ、大丈夫ですか!?今すぐに…」

すぐにハンカチを取り出そうとするウェイトレスの手を明が掴む。

「大丈夫だ。こいつ、こう言うのには慣れてるからな」

「でも…!」

「大丈夫だって。それよりもあんたは仕事に戻りな。バイト中なんだろ?」

「………分かりました」

しばらくの沈黙の後、流のことを心配そうに見ながら頷いてその場を去った。

疲れたようにため息をついてから、明が流に視線を戻す。

流はもう悶絶をやめ、フォークが刺さったところをさすっていた。

そこからは少量の血が出ている。

「まさかフォーク刺すとは思わなかったぞ」

「ああ、丁度近くにあったからな。適当に掴んで刺してみた」

流がすぐに明が先程フォークをとりだした場所を確認する。

そこに並ぶのは何セットかのフォークとナイフ。

「………」

一歩間違えたら刺さったいたのはナイフの方だったかもしれない。

「良かったな。運が良くて」

パフェを食べながら無表情で明が呟く。

「ああ。俺も本当にそう思うよ……」

震える声でそう呟くと、流もたらこスパゲティを食べ始めた。

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