第五話 噂
「………せ……わせ…川瀬!!」
突然の呼びかけに流が驚いた表情で目を開ける。
目の前にあるのは顔立ちの整った少年の顔。
格好良いというよりは童顔で可愛いといった風の顔立ちである。
「……晴樹か。俺は眠いんだ……寝かせてくれ」
そう言って開いた目を再び閉じる流。
「ふうん。まあ、聞くも聞かないも君の自由だけどね。とりあえずこの白井晴樹、同じナンパ仲間として君に伝えておくべきことがある」
「伝えておくべきこと?」
冗談じみた口調で晴樹が話し始めると、少し気になったのか流がわずかに顔を上げる。
「うん、君は編入生の話はもう知っているかい?」
「……知らない」
しばし考えた後、首を横に振る。
「そうかい。じゃあ、まずそこからだね」
そう言いながら晴樹が隣の席から椅子を引っ張ってきてそこに腰を落ち着ける。
「まず、この春に家庭の事情で2年からある少女がこの学校に編入してきたんだ」
「前置きから始めるんだな……」
明らかに嫌そうな口調で流が呟く。
「まあまあ。……それでその少女なんだけどね。前の学校ではアイドル的存在だったらしいよ」
「アイドル?」
「うん。顔は可愛いし成績は優秀、そして性格も抜群。運動は出来るわ料理は出来るわで……まさに非の打ち所が無いってやつだよ」
「へえ……実際にそんな奴がいるんだな」
感心するように頷きながら流は呟いた。
「で?」
「?」
晴樹が期待に満ち溢れた目で流を見ている。
「声かけてこないの?」
「お前なあ……」
呆れたように頭を抱える流。
「行くに決まってんだろ?」
そう言って立ち上がる流を見て晴樹がにっこりと微笑んだ。
「それでこそ川瀬だ。ちなみにクラスはB組。このクラスはA組だからお隣さんだね」
その言葉に対して手を挙げて答えると、流は教室から出て行った。