第四十八話 度胸
「おいっ、ヨウ!朝だ。起きろ」
ヨウの部屋に入って流が膨らんだ布団を揺する。
「ん……?今、何時だ……?」
目を開けずに尋ねるヨウ。
「今8時だ」
「…………くぅ」
流が答えると同時にヨウは寝息をたてていた。
それを見て流が大きなため息をつく。
「お前もこのGWが開けたら学校に行くんだからな。だから今のうちから慣らしておくんだよ!」
そう言いながらヨウの体を揺する。
先日、電話でヨウの合格が決まったのだ。
そして流とヨウ、二人ともそれを聞いて特に驚いた様子もなく、軽くお祝いをして昨日を過ごしたのだ。
「う〜ん…流のロリコン……」
「それは昨日の話だろ!っていうかロリコンじゃない!」
「じゃあ…………すぅ」
再びヨウが寝息をたて始める。
「…ったく」
そう言ってから面倒くさそうに立ち上がると流はヨウの部屋を出て、リビングに書き置きをしてから外に出た。
「さてと…」
一言呟くと、流は商店街の方に向けて歩きだした。
今は昼時なのでいつもならば賑わってはいるものの、そこまでは混んでいない時間帯だ。
しかし今はGWと言うだけあってさすがに混んでいる。
そんな中、流は一人買い物袋を持って歩いていた。
今日の目的は買い物であるため、このまま帰る予定だったのだが、途中で不良らしき人物に絡まれている男性を見かけてしまったため、立ち止まっている。
「はあ……」
それを見て流が呆れたようにため息をつく。
(この町の治安ってあんまりよくないんだよな……)
考えながらもその二人を眺める流。
絡んでいる方もガラが悪そうだが、絡まれている方もだいぶガラが悪そうだ。
「んだとっ!てめえ……」
絡んでいる方が相手の男の胸ぐらをつかみ、そのまま宙吊りにする。
見るからにがたいが大きい。
相手の男はその男の迫力に気圧され、顔色が一気に蒼白になった。
(見て見ぬ振りを決め込むか、助け船を出すか……でも痛いのは嫌なんだよな)
流が悩んでいると、不意にどこからともなく少女が男たちの間に割って入った。
その少女には流も見覚えがある。
湖上菜月。
湖上水月の妹だ。
後から水月が菜月を止めに走りよってくる。
「………」
他人ならまだしも知り合いが絡まれているのは流としても見ていたくはない。
そう思うや否や流は急いで菜月たちのところへ走りよっていった。
「暴力はよくないよ!」
近づいていくと菜月は真っ先に絡んでいる男にそう告げた。
男が菜月を睨みつける。
しかし、菜月も負けじと睨んでいる。
「こら、菜月っ」
後ろから水月が菜月の肩をつかむ。
「こっちおいで。帰るよ」
「お姉ちゃん!この人悪い事してるんだよ!止めてあげなくちゃ!」
菜月が睨みつけている男を指で指しながら大声でそう言う。
「あー、もう!とりあえずこっちに来なさい!」
水月は菜月の肩を引っ張る。
しかし菜月もどうしても止めさせたいのか、その場でがんばっている。
男はしばらくそのやりとりを見ていると、小さく舌打ちをして相手の男をつかんでいる方の手を放した。
「は……ひぃ!」
解放された男は恐怖の表情を浮かべて走り去っていった。
それを見送るとその男は今度は菜月たちの方に体を向けた。
「あ…やばっ!」
逃げようと水月が菜月の手を引っ張る。
しかしまた菜月はその場で踏みとどまっている。
「菜月、早く行くよ!」
「まって。この人私たちに話があるみたい」
「だから行くのよ!こう言うのには関わっちゃだめ!」
小声でささやく水月。
そうこうしているうちにその男は二人の目の前まで来てしまった。
しかし、その間に何者かが割り込んで入っていった。