第四十六話 引越し
ー朝。
流は外の騒音によって起こされた。
「何だよ。朝から」
枕元においてある目覚まし時計で時間を確認する。
8時。
いつもならば学校にいる時間だが、今日はGW。
つまり休みだ。
「はあ……」
せっかくの休みの朝をゆっくり過ごせずに不機嫌な流は原因を確かめようと窓のカーテンを開ける。
まぶしい朝の光が飛び込んでくる、と同時に流の視界の中に大きなトラックが入ってきた。
そのトラックは流の家の目の前に止まっている。
「何だ、こりゃ」
流は呟くと面倒くさそうにベットから降り、着替え始めた。
玄関から外に出た流はまずトラックの正体を突き詰める。
トラックの側面に書いてある言葉。
それは……
(引っ越しトマト……)
心の中で今見たものを復唱する。
「引っ越し屋?何でまた……」
訳が分からず頭をかく流。
しばらくボーっと突っ立っているとトラックの反対側から作業着を着た若い女性が出てきた。
「あっ、すみません。今トラックどけますね」
その人は流に頭を下げるとトラックをどけるため、乗り込もうとする。
「いや、特に邪魔じゃないから別に構わないですよ。それよりもどっかの家で引っ越しでもあるんですか?」
流に引き留められその女性が戻ってくる。
「はい。神田さんのお宅が引っ越しということですので」
「ああ…」
そう言えばと隣の家を見る流。
そこの表札には神田と書かれている。
そしてその門から20代後半くらいの女性が出てきた。
見た感じからして元気が良さそうだ。
「おっ。流君じゃない。どう?元気にやってる?」
「はい。美和子さんもお元気そうで」
流は幼い頃に両親を亡くしているため、美和子にはよくお隣というよしみで何かと世話をしてもらった身なのだ。
言い換えれば母親代わりのようなものだ。
「うんうん。元気元気。まだまだ歳には負けないよ!」
「ははは……」
相変わらずの美和子を見て流が苦笑する。
「それよりも、これからは寂しくなりますね」
しんみりと呟く流。
視線は神田の家に向いている。
「そうだねぇ……私も本当は離れたくないんだけど、夫が転勤じゃあねぇ……」
美和子も笑顔のままだが微妙に表情が暗い。
「でもま!これから新しい生活が始めると思えばいいんじゃない?別に今生の別れって訳じゃないんだし」
そう言いながら流の背中を叩く美和子。
力が強かったのか前につんのめったものの、美和子の元気の良さにつられ、流も笑い出す。
「相変わらず美和子さんは元気がいいですね」
「まあね。それだけが取り柄だし」
「そうですね」
笑いながら答える流。
「朝から何の騒ぎだ………?」
玄関の方から眠そうな声が聞こえてくる。
見るとそこにはパジャマのままのヨウが眠そうに立っていた。
「おっ、起きたか」
「当たり前だ。こんなに騒がしかったらどんなやつでも起きるぞ」
眠りを妨げられたためか、不機嫌そうにヨウが呟く。
「あっはっはっ!悪いねぇ。もう少しで終わるからもうちょっとだけ我慢してくんないかな?」
美和子が勇ましい笑いをしながらヨウに話しかける。
「あ…いや、そういう意味でいった訳じゃ…」
いきなり話しかけられ戸惑うヨウ。
「いいんだよ。迷惑かけてるのは事実だし。…それよりも流君の彼女?可愛いねぇ」
「あっ、いや、私は流のいとこで……」
「いとこ……?」
美和子が考え込む。
流も何かまずかったのか、頭を抱えている。
「???」
ヨウだけがなにも分からずに二人を見比べている。
「流君にいとこなんていたっけ?」
「あ…ああ、それはその……えっと、なんて言ったらいいか」
珍しく流が戸惑っている。
そんな流を怪しむように美和子が見つめている。
「ま、いつものことか」
呆れたような表情で流を見ながらため息をつく美和子。
「こいつ、何かと隠し事するでしょ?」
「え?あ…まあ」
突然話を振られ、戸惑いながらも頷くヨウ。
「まあ、いろいろと大変だろうけど、コイツのことはあんたに任せるよ」
完璧に勘違いしているのか、美和子は流のことを指で指しながらヨウにそう言った。
ヨウは訳が分からないままそれに頷いて答えて見せた。
「って、おまえも頷くな!」
「え?頷いちゃいけなかったのか?」
「当たり前だろ!明らかにこの人勘違いしてるだろが」
「?」
やはり分からないのかヨウが首を傾げてみせる。
「だぁかぁらぁ!」
大声で怒鳴る流。
先ほどまで騒音によって起こされていた事も忘れ、流はひたすら怒鳴っていた。
明けましておめでとうございます。
今年も頑張っていきたいと思いますので、
よろしくお願いします。