表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/105

第四十五話 出会い

「ありがとう、沙織。お前のおかげで助かった」

職員室前の廊下でヨウが頭を下げる。

現在の時刻7時52分。

何とか試験までには間に合ったのだ。

「ううん。そんな、大した事した訳じゃないし。……それよりも、早くした方がいいんじゃない?もうすぐ始まっちゃうよ?」

「ああ。そうだな」

そう言って職員室のドアに手をかけるヨウ。

「試験、頑張ってね。応援してるよ」

入り際に沙織が声をかける。

それに頷いて答えるとヨウは職員室の中に顔を向けた。


教室に入るとその中央の席には少女が一人ポツンと座っていた。

背中まで伸ばしたブロンドの髪を緑色のリボンで結んでいる。

顔は童顔でまだ幼さが残っている。

その少女はヨウが教室に入ってきたことに気づくと、そちらに笑顔を向けた。

「君も転校生?」

少女が容姿通りの幼い声でヨウに尋ねる。

「あ、ああ。そうだな」

戸惑いながらも答えるヨウ。

「あは。ボクもだよ。本当は編入って形で入ろうとしたんだけどね。でもちょっと遅れちゃったんだ」

「そ…そうか」

「お互い、頑張ろうね」

笑顔のままそう言うと少女は体ごと前を向いた。

前の教卓にはいつの間にか入ってきた教師らしき人が立っている。

「ええと……水名陽、で良いのか?」

その教師はヨウを見ながら尋ねた。

「あ…はい」

「そうか。じゃあ、そこの席に座れ」

指定された席にヨウが腰を下ろす。

そして鞄の中から流から渡された筆箱を取りだし、それを机の上に置いた。

「じゃあ、これから試験を始めるから私語は慎むように」

そう言って教師は手に持っていた問題を配りだした。


試験を終え、二人は肩を並べて廊下を歩いている

「う〜ん。やっぱり噂通り、難しかったね」

ブロンドの髪の少女は伸びをしながらヨウに話しかけた。

「え…まあ、そうだな」

曖昧にうなずくヨウ。

それを見て少女が小さく笑う。

「?…何だ?」

少女の行動を不審に思ってか、ヨウが尋ねる。

「ううん。試験当日に友達が出来ちゃったから、嬉しくて」

そう言いながら少女は屈託のない笑みをヨウに向けた。

その笑みはあまりにも純粋すぎてヨウが思わず目を逸らしてしまうほどだった。

「どうしたの?」

少女がヨウの顔をのぞき込む。

「あ…いや、何でもない」

ヨウは自分の行動に苦笑し、首を横に振った。

しばらく歩くと昇降口にたどり着いた。

ヨウはそこで流と待ち合わせをしている。

「あいつ……まだ来てないのか」

「あいつ?」

少女がヨウの独り言を聞き取って尋ねる。

「ああ。私の同居人のことだ。私の試験が終わったら迎えに来てくれるはずだったんだがな」

「ふ〜ん。優しい人なんだね」

「まあ、確かにな。でも悪いところもたくさんある」

「それは人間なんだから当たり前だよ。逆に悪いところがない人がいたら気持ち悪いって」

「それもそうだ」

苦笑しながらうなずくヨウ。

「それじゃあ、ボクはこれで」

「ああ。受かっていると良いな」

「あは。君もね!」

元気いっぱいにそう言うと、少女はヨウに背を向けて走っていった。

「っと、入れ替わりか」

少女が昇降口を出て、丁度見えなくなったすぐ後に流が入れ替わりで入ってきた。

「悪い悪い。待ったか?」

「いや、丁度今可愛い女の子と別れたところだ」

「何っ!?」

流が急いで辺りを見回すが辺りに人影はない。

もう少女の後を追っても追いつくことは出来ないだろう。

「チッ、もう一人の受験者って女だったのか……」

悔しそうに舌打ちをしながら流が呟く。

「ま、いいや。それよりも試験はどうだった?」

「え?ああ…まあ、書くところを間違えてなければ受かるだろうな」

「そうか」

そう言って頷くと、流はヨウの肩に手を回し、

「よしっ、じゃあ今日はヨウの合格記念パーティといくか!」

と言って拳を振りあげた。

「待て。まだ私が合格したと決まったわけでは……」

「何言ってんだよ。おまえが合格したって言ったんだから大丈夫だろ」

「いや、信頼してくれるのは嬉しいんだが……」

「いやぁ、安心したぞ。これで俺の計画達成までまた一歩近づいたってわけだ」

「だから何なんだ?その計画って……」

「まあまあ、そんな細かいことは気にしないで。今日は豪勢にいこうぜ!」

「はあ……分かったよ」

ヨウは呆れつつ、しかしそんな流を楽しそうに見つめながらそう言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ