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第四十四話 迷子

ヨウがようやく町の暮らしに馴染んできた頃、朝早くからヨウと流の二人が道路を歩く姿があった。

「おい、目は覚ましたか?」

まだ眠気眼のヨウに流が話しかける。

「ん……」

やる気のない返事でようが答えを返す。

先程からこのやりとりを何回しているであろうか。

「なあ、試験は今日なんだぞ。そんな状態で受かるのか?うちの学校の試験に」

「………ああ、大丈夫…ちゃんと歯は磨いた…」

その返答を訊いて思わず転けそうになる流。

今日はGW前の日曜日だ。

つまりヨウの転入試験の日である。

「歯じゃなくてだな……って、もうすぐだぞ。学校」

「ああ……」

相変わらずやる気のない返答。

「チッ……分かった。おい、ヨウ。ちょっとここで待ってろよ!」

「ん……」

流は返事を訊くやいなやすぐに駆けだした。

そして自動販売機の前までいく。

「よしっ、これで良いか」

素早く小銭を販売機の中に入れると、ペットボトルのボタンを押してそれを取り出す。

そしてすぐさま、また駆けだしてヨウの前まで走ってきた。

ヨウは相当眠いのか、目が瞑りかかっている。

立つったまま寝てしまいそうな勢いだ。

「荒治療!」

そんなヨウの襟を掴むと流は服の中に先程買ったペットボトルを入れた。

「………」

しばらく様子見。

数秒後、ヨウは冷たさが伝わってきたのか、表情が真剣なものになる。

そして、次の瞬間には

「冷たーいっ!」

と、叫んで走り出していた。

しばらく走ったあと、服からペットボトルを取りだし、それで流の頭を叩いた。

「痛っ!何すんだよ!」

流が叩かれた部分を押さえながら文句を言う。

「うるさい!死ぬかと思ったんだぞ!」

「そんなこと言われてもなぁ……お前、こうでもしないと起きないじゃないか」

「それでも!このやり方は禁止だ!分かったな!」

「分かったよ。分かったから行くぞ。早くしないと遅れる」

「あ…ああ、そうだな」

ようやく歩き出す二人。

校門まで来ると流は足を止めた。

「じゃ、後は一人で行けるな?」

「ああ。案内ありがとう」

「いやいや、勧めたのは俺だしな。これぐらいならいくらでも」

「そうか」

笑いながらそう言うとヨウは流に背を向けて歩きだした。


校舎の中に入ったヨウはまず最初に職員室を探し出した。

流から一階にあると聞いてはいるものの、正確な位置は教えられていない。

「って、よく考えたらあいつが職員室まで案内してくれればよかったんじゃないか……」

気づいたときにはもうすでに遅し、と言うやつである。

ヨウは人に訊くため、仕方なく辺りを見回した。

しかし辺り人影はない。

休みとはいえ、部活動をしている生徒はいるはずなので学校のどこかに生徒がいるはずである。

「ふう……」

小さく疲れたようにため息をつくと、ヨウは再び歩きだした。

この学校、蔵町高校は元々中高一貫校だ。

しかもその中でもトップクラスに広いとされてきた。

それが途中から中学がなくなり、高校だけになってしまったのだ。

つまり高校の中で敷地面積は問答無用でNo.1である。

「………まずい。間に合わないかもしれない」

しばらく歩き回った後でヨウが焦りの表情を浮かべながら呟く。

試験開始時刻は8時。

現在の時刻は7時45分。

つまり移動時間などを考えると残り10分で職員室を見つけなければならない。

ヨウが一人廊下にたたずんでいると、後ろから肩を叩かれた。

「……!」

振り返るとそこには見知った顔、桜葉沙織が立っていた。

「やっぱり水名さんだ!なんだか見たことある後ろ姿だなあって思ってね」

笑顔でそう言う沙織。

その顔を見てヨウは一気に気が抜けたのか壁にもたれ掛かった。

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