第四十二話 作戦
「あっはっはっはっ!なるほど、そんなことがあったのか」
ヨウの話を一通り聞いた流はソファに座りながら大笑いした。
久しぶりの午後までの授業だったためか、疲れたようにソファの背もたれに寄りかかっている。
ヨウも流の向かいのソファに座っている。
「笑い事じゃないぞ。あんな強引な人は初めてだ」
それを見てヨウがつまらなさそうに文句を言った。
流は先程帰ってきたばかりなのか、まだ制服を着ている。
「まあまあ、それがあの人の良いところでもあるんだからさ」
「………まあ、確かにそうだが」
少々不満げにうなずくヨウ。
「っと、そうだ」
突然流が何かを思い出したように前に乗り出す。
「?…どうした?」
「いや、おまえの転入試験の日程が決まったんだ」
「いやに早いな」
「ああ。今日直接校長に聞いてきた。もちろんちゃんとした書類も書いてきたからな」
「そうか。それは何から何まですまないな」
「いやいや。これも俺の『金髪美少女と一緒に登校して周りから羨ましがられる大作戦』のためだ」
「下心丸見えだな」
呆れたようにヨウが呟く。
しかし流は特に気にした様子もなくそのまま説明を続ける。
「とりあえず試験の日程はGW前の日曜だ。そんで、それに受かって学校に行くのはGW明けだ」
「はあ……学校か」
疲れたようにヨウがうなだれる。
「まあ、そう嫌そうにするな。友達ができればそれだけ楽しくなるさ」
流が苦笑しながら諭すが、やはり人見知りの激しいヨウにとってみれば最初のうちの学校は困難なものになるだろう。
それを思うとやはり流としても心配ではある。
「……あっ、そうそう」
ふと思い出したように流が声を上げる。
「お前が試験を受ける日、もう一人同じ時に受けるみたいだぞ」
「………それは本当か?」
「ああ。うちの学校って結構偏差値高いから転入生って結構いるみたいだな。そんで別々の日に試験をやるってのも面倒くさいから一緒にやっちゃうみたいだな」
流が頷くとヨウがさっきよりも疲れた表情になった。
「まあまあ、良いじゃないか。それに相手は女の子みたいだしな。もうそこで友達作っちゃえよ」
「馬鹿かお前は。そんな簡単に作れたらこんなに学校行くのに抵抗したりなどしない」
「まあ、確かにそうだな」
納得したように頷く流。
「まあ、何にしろたぶん向こうから話しかけてくると思うから…頼むから無視だけはするなよ。いきなり悪印象だけはやめてくれ」
「まあ……極力努力だけはしてみるがな」
自信なさげにヨウが答える。
「努力だけってそんな……マジで頼むよ」
「何でお前はそんなに真剣になる?私の学校生活は私が決めるんだから別にいいだろう」
「いや、確かにそうなんだけどな。でも、やっぱり暗い学校生活は嫌だろう?」
「まあ、確かに……」
「だからやっぱり最初のうちは俺の言うことを聞いてくれ。頼む」
そう言って流は自分の顔の前で手をあわせて見せた。
「………分かったよ。頑張ってみる」
ヨウがそう言ってみせると、流は
「サンキュ!これで俺の計画が達成できる!」
と言って嬉しそうに笑った。
「やっぱやめとく」
それを聞くと呆れた目で流を見つつ、ため息混じりにヨウがそんなことを言い出す。
「待て待て!どんな計画かも訊かないで切り捨てるのか、お前は」
「……分かった。どんな計画なんだ?それは」
疲れたようにため息をつくとヨウは流に尋ねた。
「よくぞ訊いてくれた!それはもちろん金髪美少女と……分かった。分かったから待ってくれ!」
途中で席を立とうとするヨウの手を慌てて捕まえる流。
「……はあ。もういい。分かった。好きなようにしてくれ」
疲れたように呟くとヨウはソファの背もたれに寄りかかった。
「ふう……」
流もわざとらしくため息をつくとヨウと同じようにソファの背もたれにその身を預けた。
そして不適な笑みを作り、
(『ヨウに楽しい学校生活を送らせる作戦』成功!)
と、一人で勝手にそう考えながら勝ち誇るのであった。