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第四話 誘惑

指定された教室に入ると、クラス替えのため、興奮した生徒達でにぎわっていた。

「うわ……すげえな、こりゃ」

その風景を見た洋平が思わず言葉を漏らす。

お互い一緒のクラスになれたと喜んでいる女子。

あの娘と一緒のクラスになれなかったと嘆く男子。

理由は様々だが、とにかく全員が全員騒いでいた。

流はドアの前に張ってあった席順の書いてある紙を見てからその中を突っ切って自分の席と思われる場所へ真っ直ぐに向かっていく。

「おい、流?」

「?……何だ?」

洋平が呼びかけると流は席に座りつつ洋平の方へ振り向く。

「何だ、じゃねえよ。やらないのか?いつもの」

『いつもの』というのはナンパのことだろう。

「こんなにうるさいんじゃなあ……」

目を細めながら疲れたように呟く流。

それを見て呆れたようにため息をつくと、洋平も自分の席についた。

それを見送った流は久々の早起きだったためか、相当眠いらしく、すでに目を瞑っている。

そしてそのままゆっくりと机に突っ伏そうとした。

が、頬に感じた感触は机の冷たい感触ではなく、クッションのような柔らかい感触だった。

「あ……?」

間の抜けた声をあげて流は閉じかけた目を再び開いた。

視界に飛び込んできたのは肌色の太ももとスカートの裾。

流が突っ伏す前に誰かが机に座ったのだ。

つまり今誰かに膝枕をしてもらっている状態だ。

「おお……」

思わず感嘆の声をあげる流。

「あんたにしては珍しいじゃない。誰にも声をかけないなんて」

頭上から聞こえる女性の声。

「………」

しかし流はその問には答えず、スカートの中を見ようと必死で目を凝らしている。

それを見てその少女は悪戯っぽい笑みを浮かべると、自分のスカートをつまみ、ゆっくりと持ち上げ始めた。

「お、おお、おお!!」

スカートが持ち上がるたびに歓声を上げる流。

しかし、

「はい、そこまで」

そう言ってその少女は限界まで広がっている流の目に人差し指と中指を入れた。

いわゆる目潰しである。

「がああああああああ!!」

思わず悲痛な叫び声をあげ、目を抑えながら立ち上がる流。

そしてそんな流を少女は机の上に座りながら面白そうに見ている。

「どう?落ち着いた?」

少し間をおいて少女が流に問い掛ける。

「ああ、失明するかと思った……」

そう言って開けた流の目はわずかに赤くなっていた。

「女の子のスカートの中を覗こうとするからよ。全く、エッチなんだから……」

「いや、お前が誘惑するからだろ、水月みづき?まあ、エッチなのは否定しないが」

水月と呼ばれた少女は小さく微笑むと座っていた机から降りた。

長い髪が体ににあわせて揺れる。

「なんか元気無かったみたいだからね。元気付けてあげようかと思って」

「いや、結局見えなかったし、余計に疲れたよ」

そう言って流が机に突っ伏す。

「あれ?本当に寝ちゃうの?いつもなら女の子全員に声かけてるじゃない」

水月が意外そうな声で流に話し掛けながら、その背中を突付き始める。

「今日は変な夢を見たからな……あんまりそういう気が起きないんだよ」

「どんな?」

「………」

もう寝てしまったのか、流はその質問には答えずに一定の間隔で呼吸をしている。

「ねえ湖上こじょうさん、そんな奴放っておいてこっちで話そうよ」

流とのやり取りを見ていたのか、別の女子が湖上水月に話し掛けてきた。

「え……?あ、うん。そうだね」

少し残念そうな声でそう呟くと水月の足音が流から遠ざかっていった。

それを耳で確認すると、流は大きなため息をついてそのまま眠りについた。

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