第三十九話 映画
流とヨウ、二人はまだ商店街の中をぶらぶらと歩いていた。
日は大分傾き、商店街にいる人も減ってきている。
ふと、流は立ち止まり、ある一点を見つめていた。
「どうした、流?」
それに気づかずに少し先に進んでしまっていたヨウが引き返してきて流に訪ねた。
「………よしっ!映画でも見るか」
「は?映画?」
流の突然の提案にヨウが思わず訊き返す。
「ああ、映画だ」
そう言って流たちが歩いている通りの反対側の通りを指さした。
そこには大きな映画館。
人通りが少なくなった商店街の中でそこだけに人が集まっている。
映画館の前には大きな看板が出ており、そこには先日公開されたばかりのホラー映画の宣伝がしてあった。
二人は反対側の通りに移動し、その看板の前まで歩み寄った。
「俺、これ見たかったんだけどお前はホラー映画平気か?」
「…ああ。まあ、そんなに怖がるものでもないが……」
ヨウはその看板をじっくりと眺めるようにして見ている。
その表情には怯えている様子などは見られない。
「へえ、大丈夫なのか」
流の驚いたような口調にヨウがムッとする。
「何だ、その意外そうな口調は」
「いや、女の子ってのはこういうのは苦手なものなんだけどな」
「全員が苦手というわけではないだろう?」
「まあ、確かにそうだけど。でも、こういうときのシチュエーションとしては女の子が怖がって男にピットリと寄り添う、みたいな感じなんだけどな」
「………」
流の説明すると、ヨウが呆れた目で流を見つめる。
「私がそんなことするように見えるのか?お前は」
「いや、どちらかというと見えないな」
ヨウの問いに流が苦笑して答える。
「だろう?そもそもそういう女は実際には怖がっていない。ただ相手の男に寄り添いたい一心で怖がっているように見せているだけなんだ」
「へえ、詳しいな」
感心したように呟く流。
今までヨウは時代に乗り遅れているような行動しかしてこなかった。
しかし今の言葉はそれなりに的を射ていたのだ。
「それよりも良いのか?6時に始まるみたいだぞ、これ」
ヨウに言われて流が自分の腕時計と看板に書いてある時間帯を調べる。
開演6時、今の時間…5時55分。
「おお、まずい!ヨウ、急ぐぞ!」
「全く…!」
呆れた表情でそう言うとヨウは走る流の後を追った。
映画はヨウと流が入ると同時に始まった。
入っている人数はさすがに公開されたばかりと言うだけあってかなりいる。
ヨウと流は他の人の邪魔にならないように身を低くして移動している。
自分たちの指定された席を見つけるとようやくそこに腰を落ち着けた。
少し呼吸を整えると流は隣を確認する。
ヨウの表情に焦りは見られない。
(なるほど、本当に大丈夫そうだな)
安堵の表情を浮かべると、流は画面の方に視線を移した。
そして流の意識は徐々に映画の中へと入っていった。