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第三十八話 理由

「と言うわけで沙織はもう帰ったから」

ベンチに腰を下ろしているヨウの居るところへ戻るや否や、流はヨウにそう告げた。

「そうか」

簡潔にそう言うとヨウはゆっくりとベンチから立ち上がった。

その表情からは何も読みとれない。

流はヨウの顔を見つつ、ベンチの横に置いてあった荷物を手に持って歩きだした。

ヨウもその後に続いて歩き出す。

「何だ、寂しいとか無いのか?」

しばらく沈黙していた流が口を開いた。

その質問にヨウが怪訝な表情を浮かべる。

「?…変なこと訊くんだな、お前は」

「何で?」

「だってお前の学校に入ればまた会えるんだろ?だったら何も寂しがることなんて無いじゃないか」

「確かにそうだけどな…お前って本当に頭いいのか?」

ずっと心配していたのか、流が真剣な表情でヨウに尋ねる。

その顔を見てヨウは呆れたように大きなため息をついた。

「何だよ。心配してやってんだぞ?」

「ああ。分かってる。ただ、もう少し私を信用しろ。私が受かる自信があるって言っているのだから心配は無用だ」

「その自信はどこから来るんだよ」

「何だ、まだ信用してくれないのか?」

「………いや、分かったよ。信用する。そこまで言うならもう何もいわないさ」

諦めたようにそう言うと、流はふと何かを思い出したように立ち止まった。

「?…どうした?」

突然足を止めた流を不思議に思ったのか、ヨウが振り返る。

「いや、さっき思い出したんだけどな。俺がナンパしてた連中にリンチされたときの事だ」

「どうした?」

「お前、よくあの時飛び出してこなかったな。いや、あれが正解なんだけどさ、お前の性格からして飛び出してくるかな、って思ってたんだ」

「ああ、その事か」

ヨウも何か思い出したのか腹立たしげに呟いた。

「何かあったのか?」

「ああ、あった」

そう言ってため息をついてからヨウはそのときの情景が分かるように丁寧に説明しだした。



突然走り出した流を追いかけて走ってきてみると、そこには二人の男に暴行を加えられている流の姿があった。

「流っ!」

そう叫ぶと同時にヨウは拳を握りしめて走るスピードをさらに速めた。

しかし途中で誰かに腕を捕まれ、それも止められてしまう。

「放せっ!」

人見知りの激しいはずのヨウがその腕をつかんでいる相手を睨みつける。

その相手の容貌は男で肩まで伸ばした金髪の髪、そしてチャラついた服装と大きな体躯。

一見しただけで不良と分かる格好だ。

しかしヨウはその男の姿を見てもうろたえる様子さえ見せない。

「悪いがこの手は離せない。別に変なことはしないから安心しとけ」

ふざけた口調で笑いながらその男がそう告げる。

「ふざけるな!私の友人が暴行を加えられている。その手を放せっ!」

「おーおー。確かに流の言ったとおり、強そうな女だ。それに顔もかなり可愛いじゃねえか」

先程と変わらないふざけた口調でそう言うが、逃れようとするヨウの手を押さえつけるため、男はさらに力を込める。

「……っ!誰なんだ、お前は!流を知っているのならなぜ助けにいかない!」

一瞬、手の痛みに苦悶の表情を浮かべたヨウだが、我慢して再びその男を睨む。

「そりゃあ、あいつが望んでないからだ。ここで俺が出ていって助ければ確かに話は早いが、そうしたらお前も出ていくんだろう?」

「当たり前だ」

「そう言うことだ。……ほら、そうこう言っている間に終わったぞ」

そう言ってヨウの手を離す。

「おわっ…とと」

いきなり手を離され、バランスを崩しそうになるが、何とかとどまる。

すぐに振り返って後ろを見るが、そこにはもう人波しかなかった。

「くっ……!」

小さく舌打ちをしてからヨウはこちらに歩いてくる流の腕をひっ掴んだ。



「とまあ、こんな感じだったな」

一頻り説明を終えたヨウは小さくため息をついた。

「なるほど。洋平に止められてたってわけだ」

容貌からその男が洋平だと断定した流は納得したように大きく頷いた。

その様子を見てヨウは驚いた様子で流の顔を見る。

「なんだ、本当に知り合いだったのか」

「ああ、そいつは俺の親友と言っても良い奴だ。今度紹介するよ」

「それはいいのだが、何故あいつは私を止めたんだ?お前が望んでいないとか訳の分からないことを言っていたが……」

「………じゃあ、そろそろ行くか」

そう言うや否や流はヨウから視線を逸らし、歩きだした。

「え?あ、ああ。って、お前今何か誤魔化しただろう?!」

「さあ?気のせいじゃないか?」

「こら、とぼけるな!」

怒ったように叫びながらヨウがその後を追う。

そして二人は商店街中の人間の視線を浴びながらデートを再会した。

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