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第三十七話 成績

「それじゃあ、私はここでお暇させてもらおうかな」

一通りの買い物を終えたところで、商店街のベンチで流が休んでいると沙織がそんなことを言い出した。

時刻は3時を回っている。

結局、買い物してる間はずっとヨウと沙織の二人で話していたため、流はその間は荷物持ちという職業だった。

これが流が休んでいる原因だ。

「どうしたんだ?いきなり」

ずっと荷物を持たされていたため、不機嫌そうに、しかし意外そうに答える流。

ヨウもキョトンとしている。

これを友達との遊びと仮定するなら帰るにはまだ早すぎる時間だ。

「うん、実はね、この後に用事があって…それがもうすぐなんだ」

腕時計を確認しながら残念そうに呟く。

「そうか……」

ヨウも残念そうだ。

そんな様子を流がうれしそうに見ている。

「大丈夫だよ。水名さんは川瀬君の学校に転入するんでしょ?」

「え?ああ、そうだな」

ヨウが頷く。

「私もそこにいるから、ここでお別れじゃないんだよ」

「…そうなのか?」

ヨウが流に尋ねる。

「ああ、その通りだ」

両手に持っていた荷物を下ろすと流は自分の肩をもみながらそう言った。

「だから、学校であったら声かけてね。私たち、もう友達なんだから」

「友達……」

沙織の言った言葉をもう一度繰り返す。

そして

「ああ、分かった」

と言って微笑んだ。

その光景を流はやはりうれしそうな表情で眺めている。

「で、一つ訊きたいんだけどもう試験は受けた?」

「「試験?」」

二人同時に聞き返す。

「うん。私は編入してきたから知ってるんだけど、知らない?」

「ああ、全然知らないな」

特に嘘を言っている風でもなく流は本当に驚いた様子で話している。

「あの学校には編入、または転入してくる場合にちょっとした試験があるんだよ。範囲はたぶん中学から高1まで全部だと思う」

「そうか!そうだった!」

それを訊いて何か思い出したのか、流はそう言いながら頭を抱えた。

そしていまいち話についていけていないヨウに説明を付け加える。

「うちの学校って基本的に偏差値でも上の方の学校なんだよ。だから転入とかするのにも試験が必要なんだ。そしてついでに言っておくとそれでクラスも決まる。A組が一番上で後はアルファベット順だ」

「そう言えば、川瀬君ってA組だったよね」

「ああ、そうだな」

「って言うことは成績いいの?」

「まあ、そう言うことになるな」

当たり前のように頷く流に対して、沙織は少なからず驚いているようだ。

「要はその試験で良い点を取ればいいんだろう?」

二人の会話にヨウが口を挟んだ。

「まあ、単純に言うとそう言うことになるけど、お前は勉強できるのか?」

「そうだな……まあ、大学入試の問題くらいはいけるぞ」

「………」

「………」

要のその言葉を聞いて流と沙織が互いに目を合わす。

「ま、まあ大丈夫そうだな」

「うん、A組にも行けちゃうんじゃない?」

「そうか?それならいいが……」

心配そうにヨウがつぶやく。

「まあ、何にしてもこれで心配ごとは無くなった」

「そうだね安心してお別れできそうだよ」

そう言った後に沙織が突然思いだしたようにヨウの方に顔を向ける。

「ねえ、私ちょっと川瀬君に用事があるから少し借りて良い?」

「え?ああ、構わないぞ」

「待て待て。なんだその物扱いな態度は」

文句を言いながら流が口を挟むと、沙織は悪戯っぽい笑みを浮かべながら流に顔をむける。

「まあまあ。女の子が用事があるって言ってるんだよ?ここは素直にこなくちゃ、男が廃るよ」

「……分かったよ。じゃあ、そう言うわけでちょっと待っててくれな、ヨウ」

「ああ、分かった」

素直に頷いてみせるヨウ。

そして流は荷物をそのままにしてベンチから立つと、先をいく沙織の後を追った。


「で?何なんだ?用事って」

ヨウから少し離れたところで流が尋ねる。

「うん、ちょっとね…訊きたいことがあって」

「訊きたいこと?」

特に思い当たる節がないのか、流が首をひねる。

「訊きたい事っていうよりも確認しておきたいこと…かな?」

「へえ。まあ、いいや。で?それって何だ?」

「うん。私を誘った理由についてなんだけど…」

「……それはもう話したじゃないか。ヨウにスカートを着せるためだって」

「でも、それは嘘だよね」

「何で?」

やけに確信を得た言い方をする沙織を疑問に思ったのか流が訊き返す。

「だって女好きのはずの川瀬君が女の子同士の話に混ざらないわけないもん」

「………」

真剣な表情で答える沙織に対して流が沈黙する。

その様子を見てやっぱり、と言った表情で沙織がため息をついた。

「川瀬君は嘘が多すぎるよ。……本当は水名さんの友達を作っておきたかったんでしょ?」

「……ああ」

もう誤魔化すことは不可能だと感じたのか、流は素直に頷いた。

「私が思うに、川瀬君は自分で自分の良いところを潰しちゃってる気がするな。まだ少しのつきあいだけど、私って結構勘はいいんだ」

「そうか…じゃあ、これからは極力気をつけようか」

少しひきつった笑みを浮かべながら、流がつぶやく。

「で?話はそれだけか」

「うん。できれば理由まで聞かせてほしいけど、とりあえずはこれだけ」

そう言うと沙織は流に背を向けた。

「あれ?ヨウに挨拶しなくてよかったのか?」

「うん、水名さんは誰かさんと違って嘘は言ってないからね。本当に成績は良いんだろうからすぐに転入してくるでしょ」

「なるほど……」

沙織の嫌みに苦笑いしながら、流も同じく沙織に背を向けてヨウのいる方向に歩きだした。

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