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第三十五話 策略

「実はな……」

真剣な表情で語り出す流。

「あいつは……俺の妹なんだ」

「妹?本当に?」

「ああ、可愛いだろ?」

自慢げに話す流。

「実はうちの両親が前に捨て子を拾ってきちゃってな。…つまりあいつは義理の妹だ」

「義理の妹…?本当にそんな関係の人っているんだ」

感心したように呟く沙織。

それに気をよくして流が話を続ける。

「そしてここだけの話、あいつはかなりのブラコンだ。呼び方もお兄ちゃんだし何かあるとすぐ俺にまとわりついてくる」

話終えると、流は真剣な表情で沙織をみた。

そして囁くようにして呟く。

「この事はくれぐれも内密に。あまり広げたくない事実だからな」

「う…うん。分かった」

沙織も真剣な表情で頷く。

流が安心したように微笑むと満足げに小さく息を吐いた。

「流…」

後ろからいつもの訊きなれた声。

「はい…」

思わず声が裏がえってしまう流。

その表情には焦りの表情がにじみ出ている。

後ろには下着を買い終わったのか、手に紙袋を持ったヨウ。

「?川瀬君、どうしたの?妹さん、後ろにいるよ」

「………」

「流、いつから私はお前の妹になったんだ?」

「あれ?妹さんじゃないの?」

不思議そうに沙織が訪ねる。

「沙織、ちょっとここで待っていてくれ。こいつと話すべき事がある」

「え…?まあ、いいけど」

沙織がそう言うや否や、流は振り向きざまにヨウの肩をつかんでそのまま押していく。

「り…流!?お前何して…」

途中突っかかりそうになりながらも沙織から少し離れたところまで移動する二人。

たくさんの洋服が並んでいるところまでくると、流が後ろを確認しながら立ち止まった。

いくらか周りからは注目の的となっていたが、そんなことは気にした様子もなく、流は説明を始める。

「いいか?このままお前は妹ということにしておけ」

「は?何で?普通の友達じゃだめなのか?」

「ダメだ。お前、学校に行くんだろ?その時に転入届とかも出しやすいし、それに同居している理由にもなる。これはお前のためでもあるからな」

「しかし、妹というのはいただけないぞ」

「だったら従兄弟とかでもいいから」

「……分かった」

「よしっ、じゃあ沙織の所に戻って説明しよう」

すぐに戻ろうとした流の手をヨウがつかんで止めた。

「……どうした?」

「呼び方は…別にお兄ちゃんとかじゃなくてもいいんだな?」

「………」

真剣な表情で呟くヨウをみて、流は思わず沈黙してしまう。

そしてニヤリと笑うと

「そうだな…呼んでくれるなら呼んでくれてもいいぞ」

そう言って沙織の方に足を向ける。

「そうか、ならば遠慮させてもらおう。しかし、良かった。ここで『呼ばなきゃならない』とか言われたら、でこピン二発ぐらい飛んでいたかもしれないからな」

「それは恐ろしいな……」

思わず苦笑する流。

ヨウのでこピンの威力を知っているものならば、このような反応を示すのは当たり前だろう。

安心したように大きくため息をつくと、流は気がついたように口を開く。

「ところでさ、沙織は?」

「沙織…?ああ、さっきの少女か」

「ちなみにお前と同い年だからな」

流のツッコミを無視してヨウも辺りを見回すが見あたらない。

「誰探してるの?」

「いや、だから沙織がどっかに……」

少し考えた後、流は声のした方に顔を向けた。

そこには服と服の隙間から顔をのぞかせた沙織。

「つまり並んでいる服の列を挟んで反対側に沙織はいたのだ。

「………何してんだ、お前」

「うん、何か隠してたみたいだから気になっちゃって」

「………」

「大丈夫だよ。この娘を従兄弟にしておこうとかいう話は聞いてなかったから」

黙り込む流にたいしてさらに沙織が追い打ちをかける。

「お前、それは軽い脅迫か…?」

「そんなことないよ。ただ若い男女が一つ屋根の下なんて……みんななんて言うかなぁ?」

「くっ…!」

沙織がうれしそうに流の顔をのぞき込む。

「あははっ、冗談だよ。さっき助けてもらっちゃったし、誰にも言わないよ」

「そうしてくれると助かるよ」

「でも、これはなかなかおもしろい情報だよね。貴女は……えっと名前は?」

「え…あ、み…水名ヨウ」

ヨウがドモリながら答える。

それに違和感を覚えたのか、沙織は説明を求めるようにして流に視線を送った。

「ああ、俺もさっき知ったんだけどさ。こいつ、人見知り激しいみたいでな」

「そうだったんだ。でも、それにしては川瀬君とはずいぶん仲良さそうだけど?」

「そうなんだよ、俺もそこが疑問でな」

流が視線をヨウに向けると、沙織も同じようにしてヨウを見た。

「え…私か?」

二人に見られたヨウが驚いた様子で流に尋ねる。

「当たり前だろ?今お前が話題になってんだからな」

「あ、そうか」

「何ぼーっとしてんだ?」

「いや、今訊かれて考えてたんだが、自分でもよく分からないんだ。お前とは自然と話すことができるんだ」

「………」

沙織が流にからかいの視線を向ける。

「ずいぶん信用されてるんだねぇ、川瀬君は」

「いや、だから俺は元々軽い性格だから話しやすいってだけだろ」

「ふ〜ん。まあ、いいや。そう言うことにしておいてあげる」

そう言うと沙織は流たちに背を向け、歩きだした。

「あれ?沙織、どうしたんだ?」

「お二人のお邪魔をしちゃいけないから私は退散しておくよ」

「………いや待て、沙織」

流が少し考えた後に走って沙織に追いつくと、その手をつっかんで引き留めた。

「え……?」

まだ流の突飛な行動になれていない沙織は案の定、慌てて少し赤みの差した顔を流に向けた。

しかしそこにあったのは真剣な表情ではなく、何か悪巧みしているような笑みを浮かべた流の顔。

「……川瀬君、何企んでるでしょ?」

「いやいや、そんなことはない。ちょっとお前がいると都合の良いことがありすぎてな。一緒ににきてくれないか?」

「………分かったよ。ただ、水名さんはどう思ってるの?」

「え…?あ、ああ。私は構わないぞ」

沙織の問いにヨウが答える。

「そう。分かった。じゃあ、ここは一回川瀬君の策略に乗ってみますか」

「ああ、存分に楽しんでくれ」

うまくいったことがうれしいのか、流は笑いながらそう言った。

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