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第三十三話 種類

「いてて……」

呟きながら急いで人混みに紛れる流。

人混みに紛れれば沙織が追ってくることも困難になり、もし警察がきたとしても誰が襲われていたかも分からなくなる。

「うおっ!」

しかし、途中で何者かに腕を捕まれ、無理矢理に連れて行かれる。

そして商店街の少しはずれたとことにある小さな路地に入ると、その少女、ヨウはようやく流に顔を向けた。

何か険悪なムードが漂っている。

「流、何であんな怪我する事をした?」

突然の問いかけに流が一瞬戸惑う。

しかしすぐにヨウの言いたいことが分かったのか、流は頭をかきながら困った表情を浮かべた。

「何でって言われても……可愛い子には絶対に話しかける、それが俺の性格だから…っていうのが答えでいいのか?」

流が訊くとヨウは長い髪を揺らしながら首を振った。

「違うだろう?お前は助けたんじゃないのか?あの女の子を…」

「待て待て。俺がそんな大層な人間に見えるか?」

「見えない」

一瞬の迷いもなくヨウがきっぱりと答える。

「…そういうときは嘘でも見えるって言わないか?」

「……それもそうだな。じゃあ、見えるって事で」

「………」

「まあ、そんなことはどうでもいい。それよりも今はお前のことだ。何であんなに喧嘩腰な態度をとった?」

流の両肩に手を置き真っ正面からしっかりと流の目を見るヨウ。

それを見て流は諦めたようにため息をついた。

「分かったよ。本当の事を言おう」

そう言いながら流は方におかれていたヨウの手を自分の肩からはずした。

「本当はこんなことは言いたくないんだけどな……まあ、仕方ないか」

一人でブツブツと呟きながらその場に座る流。

先ほどの暴行が効いているのか、疲れた様子だ。

「まず、おまえはナンパ者ってどんな奴だと思う?」

「…え?ナンパ者?」

「ああ。思ってくれたことを言ってくれて良い」

「えっと…そうだな。女が好きで性格が軽くていい加減な奴……だな」

その答えを聞いて流が納得したように頷く。

「ああ、そうだ。だいたいそんな感じだ。…だけどな、その中でもナンパ者ってのは大きく二つに分類される」

そう言って手のひらをヨウの前に差し出すとその人差し指をゆっくりと折り曲げた。

「一つは彼女を作るのを目的とした奴ら。こいつらは彼女が欲しいだけにかなりしつこいんだ。それで成功しない場合はストレスがたまってさっきの奴らみたいに暴力を振るおうとする奴らもいる」

一息入れると流は続けて中指を降り曲げた。

「もう一種類の奴らは『ナンパ』という行為自体を楽しむ奴ら。こいつらはふられるふられないは関係なく楽しむ奴らだ。だってふられるのも『ナンパ』という行為の一つだからな」

一通り説明し終わると流は小さくため息をついた。

「それと今回のことと何の関係がある?」

「見て分かるように俺は後者だ。そして奴らが前者。まあ、奴らが彼女に暴力を振るおうとしたのはさっき説明したとおりだ。そして俺が彼女を助けた理由。それは俺が女が好きだからだ」

「………は?」

思わず聞き返してしまうヨウ。

「おまえだって好きな物を壊されるのは嫌だろ?それと同じだ。俺も女が好きでそれを傷つけられるのが嫌なんだ。だから今回、俺はあの娘を助けた。それだけだ」

「だったら普通に助けにはいればいいだろう?わざわざあんな怪我する事しないで…」

その質問を待っていたかのように流は顎に手を当てニヤリと笑いながらヨウを見る。

「そりゃあお前、あの時の俺を見て何か思わなかったか?」

「は?何かって何だ?」

「いや、だから、女の子が危なくてそれを助ける男っていったら格好良いとしか言いようがないだろ?」

「ああ…そう言うことか。つまりお前はただ格好つけたかっただけなのだな」

「いやいや、断じて格好つけたかった訳じゃないんだけどな。それでも格好良く見えてしまうのが俺なわけで」

かなり得意になっているのか、流はかなり自慢げに放している。

「得意になっているところ悪いんだが、お前結構格好悪かったぞ」

ヨウのその一言で流の表情が一変する。

「当たり前だろう?格好良い奴というのは助けにきてやられる奴じゃない。あくまで倒さなければ格好いいとは言いがたいな」

「ま…待て。それじゃあ、俺は…」

「ああ、殴られ損だな」

「………」

相当ショックだったのか、流は開いた口が塞がらないといった様子だ。

それを見て小さく笑うとヨウは流に向けて手を差し伸べた。

「立てるか?」

「無理だ。精神的に…」

「女の子を助けたという事実は変わらないんだから良いじゃないか」

「いや、事実が変わらなくても結果が出ないんじゃ意味がない」

ヨウは小さくため息をつくと腰に手を当て恥ずかしそうに顔を背ける。

「デート、するんじゃなかったのか?」

「………」

次の瞬間には流はヨウに抱きしめていた。

「わっ、り…流!何を…」

「お前、本当にかわいい奴だな」

「え…?」

流の言葉に戸惑うヨウ。

しかしそれも一瞬のこと。

すぐにヨウは流から離れ、睨みつける。

今、流の手のある場所、それはそのままヨウがいたらヨウの腰があったであろう場所だ。

「お前は……もう少しまともでいることができないのか?」

「悪いな。これが俺の性分なんだ」

「…最悪の性分だな」

疲れた表情でため息をつくとヨウは小さく首を振り、

「もういい。そういえばお前はそういう奴だったな…」

「お?なになに?許してくれるのか?」

そういって流が駆け寄った瞬間、ヨウは用意していた中指を流の額めがけてはじいた。

いわゆるでこピンだ。

「がふっ!」

奇妙な声を上げて流がその場で尻餅をついた。

「何すんだよ!」

額を押さえながら流がヨウを睨む。

しかしヨウは悪びれる様子もなく、ただ流を見ている。

「私はまだ一言もお前を許すとは言っていないぞ」

「何でだよ。今の完全に許してる雰囲気だったろ」

「いや、警戒されているとなかなか当たりにくいからな。油断させてみただけだ」

そう言うとヨウは再び流に向けて手を差し伸べた。

「頼むから今度は普通に立ち上がってくれ」

「………分かったよ」

今度はおとなしくヨウの手を取り立ち上がる流。

埃を払うと流はにやりと笑いつつ、ヨウが離そうとした手をつかんだ。

「?どうした?」

流の考えていることがいまいち分からないのか、ヨウが怪訝な表情をしながら流の顔を見る。

「じゃあ、デートしようか」

そう呟くと同時に流はそのままの状態で歩きだした。

「な…おい、流!手を放せ。歩きにくいぞ」

「デートって言うのはこういうもんなんだよ」

笑いながらそう言うと流はそのまま商店街に戻った。

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