第三十話 開店
「……何やってんだ、お前」
流のすぐ後ろにたつ人物、細川拓哉が流を見ながら呆れた表情で呟く。
今店を開けたようだ。
「あれ?拓哉さん、店開けるの遅くない?」
流は自分の腕時計で時間を確認しながら訊いた。
流の時計は12時を指している。
確かに店を開けるにしては少し遅いようだ。
「ああ、今日は寝坊だ」
「寝坊って……いいのかよ?寝坊なんて」
「いいんだよ。俺は自営業だからな」
余裕の笑みを浮かべながら拓哉が自慢げに話す。
「いや、別に自慢することじゃ……」
「で?そっちの娘は誰だ?えらく可愛いじゃないか」
流の言葉を無視し、拓哉はヨウの方に視線を移した。
自分に話題が向いたためかヨウがビクッと体を震わせる。
「ああ、あの時はあまり確認してる時間が無かったからな」
流がそう呟くとヨウの背中を押して自分の横に立たせた。
「こいつの名前はヨウ。……えっと、ほら、この前ここで俺にぶつかってきて倒れてきた奴だよ」
「……おお、あのときの奴か!っつーことは……流ん家に世話になってるのか」
「まあ、そういうことになるな」
当たり前のように頷く流。
それに対して拓哉が顔を青くする。
そしてヨウの肩に手をおいて首を横に振った。
「悪いことは言わない。今すぐこいつの家から出ろ。危険だ」
「拓哉さん、変なこと言わないでくれよ。第一、俺はこいつには手を出せないんだ。こいつ強いから」
「へえ……そうなのか?」
そう言いながら拓哉がヨウに顔を向ける。
「え……あ…はい……」
妙に歯切れの悪い返事に違和感を覚え、流がヨウの方に顔を向ける。
なんだかうろたえている様子だ。
いつもの堂々とした態度ではない。
「あんまり強そうには見えねえけどな」
腕を組みながら拓哉がヨウを眺める。
「あ……」
困った表情をするヨウ。
そんなヨウを見て流は少し考え込むと拓哉の肩を叩いた。
「あ?何だ?」
「カツサンド食べたいんだけど、店についてくれないか?」
「ああ、そうだったな。……お前、デートなのに昼飯がこんなんでいいのか?」
「いや、これおやつだからいいんだって。昼飯は別に取るし」
「……ったく、よくそんなに食えるよな。やっぱり歳の差か?」
「そんなこと言うほど拓哉さん歳とってないだろ?」
流が呆れた表情で呟く。
見た目拓哉の年齢は20代といっても大丈夫そうだ。
「いやいや、最近からだの節々が痛くてなあ……ほらよ」
出されたカツサンドを受け取ると、流はヨウの肩に手を回し、拓哉に背を向ける。
「じゃあ、俺達はこれから用事があから行くよ」
「ああ、楽しんでこいよ」
それに手を挙げて答えると流はそのまま歩き出した。